「神話学に関していまだ一個の著書をも持たない明治の学界に、この冊子を出すに臨んで、汝の責任は重く、汝の前途は遠し。汝の先にいまだ汝の行くべき途を行きし者あらず。焉でか疾く、汝の後に汝に続くものあるを知らんや。汝の途はいと荒れたり。風あらん、波もまた有らん。さらば吾小冊子よ、幸に健全なれ」と序の次のページに高木敏雄は記している。
(以下、付記の口語訳)「神話学上論ずべき興味ある問題に限りがあるだろうか。限りはない。わずか三百五十ページの小冊子において到底これらの問題をことごとく網羅することはできない。けれどもその重要なものは論じたつもりである。本書の目的はすでに前に述べたように神話学に関する一般普通の知識の普及にある。祖国の人文に対する大いなる貢献をしようなどとは初めから思っていない。ただこの小冊子によってその目的の幾分かでも達することができればそれは著者の幸福というだけではない。今著者はあえて多くは望まない。なぜあえて多くを望もうか」と序の終わりで述べているがこれが著者の言いたかったことだと思い、何とか次の世代の人たちに読んでほしいと口語訳に挑戦したが簡単に挫折した。辿り着いたのは「まずはそのまま読むこと」という結論だった。(幡野恵子) |