ファウストは神に仕えていた。従って
しかし或雪上りの午後、ファウストは林檎を見ているうちに一枚の油画を思い出した。それはどこかの
ファウストは
最後に或薄ら寒い朝、ファウストは林檎を見ているうちに突然林檎も商人には商品であることを発見した。現に又それは十二売れば、銀一枚になるのに違いなかった。林檎はもちろんこの時以来、彼には金銭にも変り出した。
或どんより曇った午後、ファウストはひとり薄暗い書斎に林檎のことを考えていた。林檎とは一体何であるか?||それは彼には昔のように手軽には解けない問題だった。彼は机に向ったまま、いつかこの
「林檎とは一体何であるか?」
すると、か細い黒犬が一匹、どこからか書斎へはいって来た。のみならずその犬は身震いをすると、
なぜファウストは悪魔に出会ったか?||それは前に書いた通りである。しかし悪魔に出会ったことはファウストの悲劇の五幕目ではない。或寒さの厳しい夕、ファウストは騎士になった悪魔と一しょに林檎の問題を論じながら、人通りの多い街を歩いて行った。すると
「あの林檎を買っておくれよう!」
悪魔はちょっと足を休め、ファウストにこの子供を指し示した。
「あの林檎を御覧なさい。あれは
ファウストの悲劇はこういう言葉にやっと五幕目の幕を挙げはじめたのである。
ソロモンは生涯にたった一度シバの女王に会っただけだった。それは何もシバの女王が遠い国にいたためではなかった。タルシシの船や、ヒラムの船は三年に一度金銀や
ソロモンはきょうも宮殿の奥にたった一人
シバの女王は美人ではなかった。のみならず彼よりも年をとっていた。しかし珍しい才女だった。ソロモンはかの女と問答をするたびに彼の心の飛躍するのを感じた。それはどういう魔術師と星占いの秘密を論じ合う時でも感じたことのない喜びだった。彼は二度でも三度でも、||或は一生の間でもあの威厳のあるシバの女王と話していたいのに違いなかった。
けれどもソロモンは同時に又シバの女王を恐れていた。それはかの女に会っている間は彼の
ソロモンは彼女の奴隷になることを恐れていたのに違いなかった。しかし又一面には喜んでいたのにも違いなかった。この矛盾はいつもソロモンには名状の出来ぬ苦痛だった。彼は純金の
わが愛する者の男の子等の中にあるは
林の樹の中に林檎 のあるがごとし。
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その我上に翻したる旗は愛なりき。
請ふ、なんぢら乾葡萄 をもてわが力を補へ。
林檎をもて我に力をつけよ。
我は愛によりて疾 みわづらふ。
或日の暮、ソロモンは宮殿の露台にのぼり、はるかに西の方を眺めやった。シバの女王の住んでいる国はもちろん見えないのに違いなかった。それは何かソロモンに安心に近い心もちを与えた。しかし又同時にその心もちは悲しみに近いものも与えたのだった。林の樹の中に
················································
その我上に翻したる旗は愛なりき。
請ふ、なんぢら
林檎をもて我に力をつけよ。
我は愛によりて
すると突然幻は
ソロモンは幻の消えた後もじっと露台に
エルサレムの夜も更けた後、まだ年の若いソロモンは大勢の妃たちや家来たちと一しょに葡萄の酒を飲み交していた。彼の用いる杯や皿はいずれも純金を用いたものだった。しかしソロモンはふだんのように笑ったり話したりする気はなかった。唯きょうまで知らなかった、妙に息苦しい感慨の
されど我は悲しいかな。
番紅花は余りに紅なり。
桂枝は余りに匂ひ高し。
タルシシの船やヒラムの船は三年に一度金銀や象牙や猿や孔雀を運んで来た。が、ソロモンの使者の駱駝はエルサレムを囲んだ丘陵や沙漠を一度もシバの国へ向ったことはなかった。
なぜロビンソンは猿を飼ったか? それは彼の目のあたりに彼のカリカチュアを見たかったからである。わたしはよく承知している。銃を