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車室

漢那浪笛




一頭のやせ馬に、

ひかれゆく黒塗りのかた馬車。

乗ひ合は六人、

その中に一人ひとりの若かい女。


膝向き合はした客は、

お互に眼をひらめかし、

たゞ無言。

||疑ひの多き車内だ。


沙漠に似たる車内に、

一人の若かい女、

今宵の旅の疲れに、

一つの慰めとなる。


あゝ車内の若かい女、

夜のランプにたとへやう?。

その異性の光は、

私の淋しい心を照らす。


時々色と匂ひと、

車のゴタック毎にとろけて、

静かになつかしく、

アブラにしんた肉にふるゝ。


哀れなものはやせ馬、

鼻息荒らく、たゆむ隙がない、

鞭の鳴る毎に

いや更に走る。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「沖縄毎日新聞」

   1911(明治44)年1月8日

※初出時の署名は「浪笛生」です。

※初出の新聞で作品名として扱われている「車室」を表題としました。

※表題は、底本では「南の友へ【一】」の見出しの次の行に、5字下げて2行取りの横罫の下に記載されています。

入力:坂本真一

校正:良本典代

2016年12月9日作成

青空文庫作成ファイル:

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