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吸い殻

漢那浪笛




午前七時、

時刻が来たいざ学校へ。


晩秋おそあきの市街の上を、

悲しげに風は泣きすぐ。


絶えずしたゝる冷たい鼻汁を、

すゝりつゝ道を通る。


ふとして眼にとまる白い吸い殻、

誰れが手から投げ捨てられし······


もどかしい黄色な煙は、

力なく渦をまいて漂ふ。


火の気衰ろへ、煙が消えると、

死人の影がちらつく。


今一しきり秋空が吹き過ぐる、

吸い殻は空しく地上を転ろげる。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「沖縄毎日新聞」

   1911(明治44)年1月9日

※初出時の署名は「浪笛生」です。

※初出の新聞で作品名として扱われている「吸い殻」を表題としました。

※表題は、底本では「南の友へ【二】」の見出しの次の行に、5字下げて2行取りの横罫の下に記載されています。

入力:坂本真一

校正:良本典代

2017年1月12日作成

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