「お前さんは、たれだ、そんな処へこられては困る、もう張令のお着きになる時分だ」
奴僕の一人は
「おけ、おけ、そんなことをしなくってもいい」
張は奴僕を制して黄いろな服の男に向って聞いた。
「君は、どこから来たのだね」
黄いろな服の男は頷いて見せたが何も言わなかった。張は不思議な奴だと思ったが、悪人であるだけに気にもかけなかった。
「じゃ、まあいい、御馳走をしよう、酒でも飲んで往くがいい」
大きな盃へ酒を注いで出さすと、黄いろな服の男はやはり黙って飲んだ。飲んでから羊の
「私は人ではありません、新たに死ぬる人の名を記入した
張はますます好奇心に駆られた。
「では、それを見せてくれないか」
と言うと、黄いろな服の男は袋から軸になった物を出した。張が取って見ると、「
「私は一家一門が広いから、後の始末をせずに死ぬると、大変なことになる、今、私の
張は泣きだしてしまった。黄いろな服の男は言った。
「金はいりません、今日のお礼に教えてあげましょう、華山の
そこで張は車をかまえて華山廟へ往き、
「死んで体が腐りかかっているものが、なにしにここへ来た」
と言って叱った。張はその前にひれ伏して、
「どうか私の生命が延びるように、おとりはからいを願います」
「いかん、俺は一度、漢朝の権臣の生命を延ばそうとおもって、奏請したために、ここへ
張はここぞと思って一生懸命になって頼んでいると、一人の使がやってきて
「華山の神から頼んできたな、しかたがない、奏請してみよう」
道士は筆を執って何か書いてそれを函に入れ、香を焚いて拝んでいると、その函がひらひら空へあがって往った。そして、暫くするとはじめの函が落ちてきて道士の前へ止まった。函の上には、徹という字が書いてあった。道士はまた香を焚いて拝んだ後に函の蓋を開けた。それには、張の生命を五年延ばしてやるという意味の文書が入っていた。
「五年の生命が延びた、これからは身を謹み、心を清くせんければならんぞ」
張は喜んで礼を言って道士の前を辞し、一足歩いて振り返って見ると、もう庵もなければ道士もいなかった。そして、十里あまりも歩いたところで、かの黄いろな服を着た男がひょっこり前へきて立った。
「あなたのお陰で、五年間生命が延びました、どんなお礼でもいたします、言ってください」
黄いろな服の男は、
「私は何もいらない、華山の神へ約束の金を献上して、私を門番にしたいと言ってもらいたい、そうすると、私の苦痛もなくなる、私はもと
と言い言い歩いて往って、そこの
張は華陰の旅館へ帰ったが、華山の神へ献上する金が惜しくなった。彼は奴僕の一人に言った。
「千の金を献上する約束をしてきたが、千ありゃ、十晩の費用が出る、
奴僕はてんでそんなことは信用していなかった。
「そうでございますとも」
翌日張は華陰を出発して、十日ばかりの後に
「あなたは嘘
張は
夜になって張は急に病気になった。張はもうとても逃れないと思ったので、遺言状を書いて妻子の許へ送ろうと思って、筆を持って書きだしたが半分も書かないうちに死んでしまった。