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古街

漢那浪笛




黄昏時たそがれときを四五分すぎたあと、

薄闇を縫ふて、紅い々々の華が、

冬咲きの仏相花のやうにちらつく。

昔の栄華を夢見る古るい街、

傾むいた軒を並べて、

底深く静まりかへる。


蔦の生へた石垣からは、

亡びの色調を帯びた虫の歌。また、

たく/″\と流れる溝のなげかひ。


私は古るい街の巷に迷ひこんだ、

何処かへ逃げ道を見出さうとした、

古るい街は逃すまいと抱きつく。


私と亡びゆく古るい街、

その間に永い哀情が横たへ、

深かい/\闇に沈んでゆく。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「沖縄毎日新聞」

   1911(明治44)年1月10日

※初出時の署名は「浪笛生」です。

※初出の新聞で作品名として扱われている「古街」を表題としました。

※表題は、底本では「南の友へ【三】」の見出しの次の行に、5字下げて2行取りの横罫の下に記載されています。

入力:坂本真一

校正:良本典代

2017年1月12日作成

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