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まよわし

漢那浪笛




わが思ふひとありやなしや。

まよわしきかな。


夕暮の窓にもたれて、蒼白あをじろき息ふく

われも、またありやなしや。

あな、うたがわし。

蚊のなく声を、君がかなしき唄とや

きかむ。

柔風なよかぜの木の葉にすがる、たわふれを、

君が鬢のほつれとやきかむ。


淋しき夕べの鐘もきこゆ。

森のかなた、君住むほとの頭りにや

あらむ。


今なり、われは独りさ迷ひゆかむ!

ゆふべの鐘をしたひて

その音に耳をしづめて。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「沖縄毎日新聞」

   1911(明治44)年1月12日

※初出時の署名は「浪笛生」です。

※初出の新聞で作品名として扱われている「まよわし」を表題としました。

※表題は、底本では「南の友へ【五】」の見出しの次の行に、5字下げて2行取りの横罫の下に記載されています。

入力:坂本真一

校正:良本典代

2017年3月11日作成

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