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おびえ

漢那浪笛




咲きしはなはしぼみて、

わが世はくらがりわたり。


くろめる渦巻きのなか

淋しき、うめきをやする。


そは、つめたき砂のうへに裂けて、

風に泣く片葉(不明)貝にも似たり。


絶えせぬ浪の響き、肉にゆさぶれば、

小さき魂は、音なく伏してあるなり。

「なほ生きてあるのみ」

いつかまた、われは哀ふ。

と思へば、あたりのものみな、

怖ろしく眼にとまる。

かつて、命をすてゝ去る人あるを聞けど

あまりにかへる日の遠し············

われは今、かのひからびし落葉の如く

地の上を、あてなく転げて、

冷やかに尚ほ生きてあるのみ。






底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩※(ローマ数字1、1-13-21)」国書刊行会

   1991(平成3)年6月6日第1刷

初出:「沖縄毎日新聞」

   1911(明治44)年6月1日

※初出時の署名は「浪笛生」です。

※初出の新聞で作品名として扱われている「おびえ」を表題としました。

※表題は、底本では「南の友へ【一】」の見出しの次の行に、5字下げて2行取りの横罫の下に記載されています。

入力:坂本真一

校正:良本典代

2017年3月11日作成

青空文庫作成ファイル:

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