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樹木とその葉

冷たさよわが身を包め

若山牧水




冷たさよ

わが身をつゝめ


わが書齋の窓より見ゆる

遠き岡、岡のうへの木立

一帶にくろみ靜もり

岡を掩ひ木立を照し

わが窓さきにそゝぐ

夏の日の光に冷たさあれ


わが凭る椅子

腕を投げし卓子てーぶる

脚重くとどける疊

部屋をこめて動かぬ空氣

すべてみな氷のごとくなれ


わがまなこ冷かに澄み

あるとなきおもひを湛へ

勞れはてしこゝろは

森の奧に

古びたる池の如くにあれ


あゝねがふ

わが日の安らかさ

わが日の靜けさ

わが日の冷たさを






底本:「若山牧水全集 第七卷」雄鷄社


   1958(昭和33)年11月30日発行

入力:柴武志

校正:浅原庸子

2001年5月3日公開

2005年11月10日修正

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