雨が降つてゐる。

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何時の間にか雨が止んでゐる。私は机の前に
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淋みしい「人生興奮」。
ながいことかゝつて火鉢に炭をついでゐた。
僕は何か喜びにあひたい。このまゝ日が暮れてしまつては、口ひとつきくことが出来ない。
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僕はいつものやうに寝床に入つてゐる。そして、電燈を消さうか消すまいかと思案してゐる。もう床へ入つてから二時間はたつてゐる。
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月のない夜は暗い。窓に何処かの門燈がうすく映つてゐる。
ま夜中よ
このま暗な部屋に眼をさましてゐて
蒲団の中で動かしてゐる足が私の何なのかがわからない。
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この頃僕は日記をつける気にはなれない。たのまれて書いてゐるのだ。僕はこの頃きせるで煙草をのんでゐる。時々詩を書いてゐる。
「この頃我が胸に燃え上つたものはみな、すべて再び我が胸の深みに沈んで行け······」といふツルゲエネフの「ファウスト」の終りにある言葉を思ひ出してゐる。
(一九二八年一月×日)
(現代文芸第五巻第二号 昭和3年3月発行)