1 すでに街娼のことについて
かの女たちの色彩の同一色であることは、労働者の持つ社会観が赤と黒によって染められたと同じく、かの女たちのイヴニング・ドレスの黒色と紅の一線が虹のように浮き、厚化粧に口紅の持つ特殊な色は、これはマドモアゼルでもなし、不良の女でもなし、ショップ・ガールでもない、商売女としての商標を明瞭に人々に感じさすところの色彩だ。
この間も僕は妻を同伴して銀座を散策してかの女たちの一人を見出すと、妻にかの女こそ、ストリート・ガールの典型的なものだ。と、云った。
流行品店とキャバレーのあるアスファルトの露地に、黒いケープレットのついた夜の衣裳をつけて、ハイ・ヒールのエナメルの靴を
「||君。それ、ほんと。」と、僕の妻は異彩のある女にたいする興味を外に見せて確めるように云った。
「||うん。最上等の立ち淫売だ。」
「||もし、······そうなら、今夜は君をかの女の恋愛術の中へ預けたいのよ。」
「||うん、御随意だが、君はどうする?」
「||仕事があるのよ。Sデパートに依頼された新衣裳と、R新聞に原稿を明朝までに書いて置かなくちゃならないの。」
「||それで、あの女にはいくら支払う。」「||いくらぐらい必要なの。あの女?」
「||十円とその他、······いくらか。」
夜間の遊覧飛行イルミネェーションで作られたファンタジツクな科学の尻尾、||妻にたいする愛を結びつけて、······。
2
「||今晩は。」「||何か御用?」
夜の女の衣裳の背後が社交的に
3 ホテルの部屋で僕はかの女が花瓶の中の花の茎のように華奢な肉体なのに気が付いた。僕は女性にたいする狩猟家であったか。かの女の痩せた花粉のついた装飾にすら、僕は情欲をもって
エロチシズムの演技場に行くまでの道程については云う必要もあるまい。そして近代女の技術主義についても。
「||あなたの一緒にいた御婦人について伺いたいわ。」
「||恋愛でないセンジュアリズムの見本。」「||と、云うと?」「||女房だ。」
街に展いた窓の
「||その女房と云うのはどんな役目なの?」
「||君に委任された僕のセンジュアス以外のものの
「||あなたの云うこと、よく分んないわ。」
4 夜が更けて僕が眼覚めたとき、かたわらには腐敗しかかった売笑婦の肉体が
その肉体の地図に分割された新領土に僕は住んでいる。売笑婦の持つ感覚の楼上から底辺に達する戦場には、資本家の軍隊の残した指紋の遺跡がある。······つまり、売笑婦の蠱惑を戦場の地域に
侵略される肉体の所有者について探究するとき、かの女たちは、そこに帝国主義的な型を持った男性の手管を感じ、
戦争にたいする僕の幻影のいかなるものかについてはいま語るをさし控えよう。かの女の肉体の地図に戦争の持つ赤手袋を
5 夜が明けて僕は卓上の電話の受話器を妻の寝室に通じた。
「||お早う。昨夜はよく寝られたかね。」
「||······君のいない、······おかげで、あたし睡眠を充分とることが出来たわ。」