「ジャン・クリストフ」は、初めカイエ・ド・ラ・キャンゼーヌ中の十七冊として発表され、次で十冊の書物として刊行されていたが、一九二一年に、改訂版四冊として再刊された。そのさい作者は、この長編の全部にわたって、至るところに多少
なお、その後「ロマン・ローラン全集」が出るにあたって、他の分類を廃し十巻の区別だけを保存して、刊行された。これには一九三一年の日付の作者の長い緒言がついている。この緒言は、この作品の生成および内容について重要な解説を含んでいるが、回顧的気分で書かれたものであり、かつは、作品の読後でなければ充分に理解しがたい点をも含んでいるので、最後に訳出して添えることにした。そしてこの巻頭には、作品全体の見通しをつけるに便利なものとして、改訂版四冊の序言を以下に訳出しておく。
われわれは「ジャン・クリストフ」のこの決定版のために、十冊版のそれとは異なった分類を採る。その十冊は三部に分かたれていた。
一、ジャン・クリストフ
一、曙 。二、朝。三、青年。四、反抗。
二、パリーにおけるジャン・クリストフ
一、広場の市。二、アントアネット。三、家の中。
三、旅の終り
一、女友だち。二、燃ゆる荊 。三、新らしき日。
われわれはここに、事柄の順位に代ゆるに、感情の順位をもってし||論理的な多少外的な順位に代ゆるに、一、
二、パリーにおけるジャン・クリストフ
一、広場の市。二、アントアネット。三、家の中。
三、旅の終り
一、女友だち。二、燃ゆる
かくして作品全体は、交響曲の四つの楽章のように、四編となって現われる。
第一編は、クリストフの若き生(
第二編(反抗、広場の市)は、当時の社会的および芸術的虚偽にたいして征途にのぼった、卒直な一徹過激な青年クリストフの騎馬行を||
第三編(家の中、アントアネット、女友だち)は、前編の狂暴な熱中と憎悪に対照する、穏かなしみじみとした雰囲気の中にあって、友情と純愛とへの哀歌である。
最後に第四編(燃ゆる
カイエ・ド・ラ・キャンゼーヌの最初の版(一九〇四年二月||一九一二年十月)の各冊には、次の銘がつけられていた。それは昔、ゴチック式寺院では、
いかなる日もクリストフの顔を眺めよ、
その日汝 は悪しき死を死せざるべし。
その日
この銘は、著者のひそかな希願を表明したもので、ジャン・クリストフが著者にとってと同様に読者にとっても、苦難を通じてのよき
苦難はあらゆる人々に到来した。そして全世界の各地から著者のもとに届いた反応を信じてよければ、著者の希願は空には終らなかった。著者は今日その希願を新たに繰返す。始まってしかもなかなか終りそうもないこの
一九二一年一月一日
パリーにて ロマン・ローラン