一
コーカサスに、一匹の大きな
「自分は仲間の誰よりも、体が大きく、力が強く、知恵もあるので、みんなから尊敬されている。そこで一つ
そして彼はいろいろ考えた末、国中の一番高い山の頂に、立派な岩屋を探して、そこに住居を定めようとしました。
ところがいよいよとなると、どれが国中で一番高い山か、さらに見当がつきませんでした。一番高そうな山の上に立って、四方を見渡しますと、向こうの山の方がもっと高そうに思われますし、その山の上へ飛んでゆくと、また向こうにもっと高そうな山が見えます。そしてあちらこちらと、山から山へ飛び移ってるうちに、体が疲れてくるし、気持ちはいらいらしてくるし、どれが一番高い山だかさっぱりわからなくなりました。
「こんなじゃとてもわかりっこない。誰かに聞かなくちゃ
そう思いついて彼は、ある山のうえに飛んでいって、大きな岩の上にとまって、山の
「もしもし、ちょっとおたずねしますが、国中で一番高い山はどの山でしょうか」
すると、岩の中の方から大きな声がしました。
「俺だ」
禿鷹はびっくりしました。これが国中で一番高い山だったのかしら、と思ってあたりを見渡しますと、どうも向こうの山の方が高そうな気がします。それでなおも一つの山の霊に聞いてみたくなって、向こうの山へ飛んでゆきました。
「もしもし、国中で一番高い山はどの山でしょうか」
すると、その山の霊が岩の中から答えました。
「俺だ」
禿鷹はまたびっくりしました。そして、も一つ他の山にたずねてみようと思って、その方へ飛んでゆきました。
「もしもし、国中で一番高い山はどの山でしょうか」
「
そこで
さあ禿鷹は困ってしまいました。山自身に聞いてもわからないとすれば······。その時ふと彼は、山の神のことを思いつきました。国中の山の
彼は一人うなずいてから、
「いつも御機嫌よろしゅうて、結構でございます」
禿鷹が
「うむ そして[#「うむ そして」はママ]お前のような者がわしの所へ来たのは、何の用か」
「はい、私共は山の上に住んでおりますので、山については何一つ知らないことはありません。がただ一つ、国中でどれが一番高い山だか、それがわからないで困っております。私共にとっては、山は言わば自分の家でありまして、国中で一番高い山は、自分の家の一番
「ああそのことで来たのか」と山の神は言いました。「山の
「はい、どうぞお願いいたします。そして······」
「いやもうよい。山の霊達にはすぐわしが言いきかしてやるから」
二
翌日になると、禿鷹は高い山の上へ飛んでいって、その山の霊にたずねました。
「もしもし、国中で一番高い山はどれですか」
岩の中から山の霊が答えました。
「向こうのだ」
禿鷹は向こうの山に飛んでゆきました。
「もしもし、国中で一番高い山はどれですか」
「向こうのだ」
禿鷹は向こうの山に飛んでゆきました。しかしその山の霊も一番高い山は向こうのだと答えます。そんなふうにして、
「これは困った。山の神に言われたとみえて、どの山もへりくだってばかりいて、向こうのだ。向こうのだ······と言うんじゃあ、いくら聞いてもわかりっこない。そうだ、も一度山の神の所に行ってみよう」
そこで禿鷹は、山の神の所へ飛んで行きました。
「昨日はありがとうございました。おかげで山の
「よろしい」と山の神は言いました。「お前の言う通りに言いきかしておいてやろう。どの山が一番高いか、わしから教えてやってもよいが、今まで山の霊達にたずねたのだから、やはり山の霊達に聞くがよい。山の霊達には、お前の望み通りわしが言いきかしておいてやる」
「どうぞお願いします」
そして禿鷹は喜んで帰ってゆきました。
三
さて翌日になると
「もしもし、国中で一番高い山はどれですか」
するとその山の
「どれだか知らない」
禿鷹は
そうなると禿鷹も、山の霊達から聞き出すことはあきらめるほかはありません。それかって、山の神へまた何とか頼みに行くのもしゃくです。はて何かよい
「雷の神なら一番高い山を知っているはずだ。がただ聞いたんでは、
四
禿鷹は翌日、
「今日はよいお天気のようですが、お休みになるのですか」
「そんなことを聞いてどうするのだ」と
「いえ、どうもいたしませんが いつも[#「いたしませんが いつも」はママ]あなたが低い所でばかり雷を鳴らしていらっしゃるので、お疲れになったのじゃないかとおもいまして、へへへ」と
「何だ、低い所でばかり雷を鳴らしてるから疲れる······」
「私共から見ますと、あなたが低い平地の上にばかり雷を鳴らしていらっしゃるのが、
気の短い雷の神は、それを聞いてもうむかっ腹を立てて、いきなり立ち上がりました。
「よし、それではこれから、国中で一番高い山の上に、大空の上から雷を落としてみせるぞ」
「それは結構でございますな。
雷の神がうまく
五
そこで
谷間から遠く低く平地へかけて、ぼーっともやがかかっていまして、その間から方々に、高い山の頂がそびえ立って、きらきらと日に照らされています。
するうちに、いつのまにか、日の光が隠れてしまって、今まで低い
「
そう思って
夕立雲はますます大きく濃くなって、見る見る内に空を隠してゆき大粒の雨がぽつりぽつり落ちてきて、天地がまっ暗な闇に包まれてしまいました。
「さあもうじきだぞ」
そして禿鷹はさらに眼を見張りましたが 岩の[#「見張りましたが 岩の」はママ]影からではよく見えないので、その山の頂の一番高い岩の上に飛び上がって、雨に濡れながら一生懸命になって、どこに雷が落ちるかを見張りました。
雨はもう大降りになり、天地はなお一層暗くものすごくなり、高い雲の中には雷が鳴り始めました。と思うまに、ぴかっと矢のような光がつっ走って 同時に[#「つっ走って 同時に」はママ]天地もくずるるばかりの音がして······とまでは覚えていましたが、それきり
禿鷹が上っていた山こそ国中で一番高い山で、そこに