こゝはふしぎな国でした。大きな森もあれば、えもいはれぬ色や
そのわけは、この国のまん中の、高い岩のがけの上に、一つの大きなお城がたつてゐます。そのお城には||土地の人たちが虹猫に話したところによると||一人の悪い大女がゐて、この国の人たちをさかんにいぢめ、しじう、物を盗んで行きます。ひどいことには、子供までもさらつて行くのでした。
虹猫は、じつさいに、目のあたりこの大女を見たといふ人には、
なんでも、その大女は、あたりまへの人間のせいの三倍も高くて、その髪はふとい
暗い夜など、大女は六
さうかと思ふと、
「こら、きさまたちの宝を出せ、出さないと子供をとつて行くぞ。」といふ叫びが聞えるのです。土地の人たちは、仕方なしに窓を開けて、こは/″\、その宝物を外に投げ出すのです。
又ときには、いつか知ら、立札が出て、これ/\の品物をお城の門のところへ持つて来て置かないと大女が降りて来て、みんなをひどい目にあはすぞと書いてあることもあります。土地の人たちは、その立札どほり品物を持つて行つて、お城の門へ置いて来ますが、そのたんびに、そこで見て来たいろんな恐ろしい話を伝へます。
又
けれども、一ばん悪いことは
取り残された子供の話によると、とほうもなく大きなマントを頭からかぶつた、えたいの知れないものが、どこからかヒヨツクリ飛び出して、自分たちの仲間の一人を引つさらつて森の中へ走つてにげたといふのでした。
だから、親たちは、ちよつとの間でもその子供から目をはなすことができなくなつていつ大女が出てくるかと、そればかり心配してゐるので、仕合せといふものが、国ぢうから、だん/\消えてなくなりました。
虹猫の智恵は、もうこの国にまでも聞えてゐましたから、土地の人たちはその来たのをみると大よろこびで、どうかいゝ智恵を貸して、助けて下さいと頼みました。虹猫はこれはなか/\面倒な仕事だと思ひましたけれど土地の人たちがあんまり気の毒なものですから出来るだけの事は致しませうと約束しました。
そこに着いてから二日目の夕方、虹猫は小さな袋をもつて、こつそり大女のゐるお城をさして出かけました。袋の中には雷から
虹猫は、土地の人たちには、何にも言ひませんでした。言つたからとて、どうすることもできるわけではなし、たゞ心配をするきりのことですから。
だから、うまい計略を考へるため、少し散歩してくるといつただけで出かけました。
虹猫は身がるに岩の出たけんそな道を
お城にはすばらしく大きな二つの石の塔が一方の端と、も一方の端とに、一つづゝ立つてゐて、その高い煙突からは、毒々しい、みどりやら、紫やら、黒やらの煙がもく/\とあがつてゐました。
「なるほど、あれは大女が恐ろしい魔法の薬をこしらへてゐるんだな。」と、虹猫はひとりごとを言ひました。
そこで塔の下のところに腰かけて、袋から千里眼のお水のはいつた小さな
さま/″\変な、恐ろしい形をしたものが壁にかゝつてゐたり、
魔法つかひは腰に大きな
金の箱、銀の箱、宝石の箱、大女の
そんな札が鍵についてゐましたから、虹猫はよつぽど事情が分つて来たやうに思ひましたが、もつとよく見きはめてやらうと思つたので小さな袋を取上げて、こつそりお城の、別な端に行つて、そこの塔の下に腰をおろしました。そして又れいの千里眼のお水を目にぬりつけました。
今度その目にうつつたのは、子供たちの一ぱい集つてゐる大きな
子供たちはいそがしさうに仕事をしてゐました。或者は妙な草をより分けてゐる。或者は重い石で、何だか変なものをつきくだいてゐる。又別なものはえたいの知れない水薬を、この瓶から、あの瓶へとおづ/\した手つきではかつて、一てき/\とうつしてゐます。みんな、あをざめた顔をして疲れきつたやうに見えます。
そのとき、ふと戸口が開きました。はいつて来たものがあります。それはほかでもない、大女でした。けれども、虹猫は二度びつくりしました。なぜかつて言へば、大女は、せいはすばらしく高かつたに相違ありません。けれどもその顔は決して恐くはなくつて、かへつて美しく、
大女がそこにあらはれるが早いか、子供たちはみんな走つてそのそばへ行くのが、ちやうどお母さんでも来たやうに、
虹猫はもうぐづ/\してはをりません。すぐにマンドリンをとつて、弾き始めました。けれども、魔法つかひに聞かれると悪いと思つて、そんなに音高くは鳴らしません。しかし幸にも風が順に吹いてゐました、それに魔法つかひは、その魔法の仕度に一生けんめいだつたので、そんな音なんか聞えはしませんでした。
けれども、大女はあたりまへの人よりも大きな耳をもつてゐて、よく聞えるものですから、すぐその音を聞きつけました。そして窓から顔を出しました。塔の下には虹猫がマンドリンをかゝへて腰かけてゐますから、何をしてゐるのかときゝました。
「
大女はリボンの腰帯をといて、その一ばん下の端にハンケチを入れて置いた袋をゆはへつけて下ろしてやりました。大女の持ちものですから、その袋は虹猫がはいつて、そのうへに又宝の袋やらマンドリンやらを入れても十分あまりがあるほど大きかつたのです。
大女は虹猫を窓のふちまで引き上げて、中に入れて、何をしてゐるのか、どうしたのかときゝました。虹猫をたゞものでないと見てとつたからです。
虹猫が、ユタカの国で聞いたことを話しますと、大女も自分の身の上話を致しました。
悪い魔法つかひが来て、大女がまだほんの赤ん坊であつたとき、盗み出して、このお城につれて来て中に閉ぢこめ、魔法にかけて、ありとあらゆる悪いことをしてゐたのでした。
「土地の人は何でもかんでも、みんな
大女は目からボロ/\と涙を流しました。それは一粒で一つの池ができるやうな大粒の涙でした。
「泣いちやいけません。」と、虹猫は言ひました。「いまにみんなよくなります。
けれども大女は恐がつて、とてもそんなことをする勇気がないのでした。
「そればかりでなく、なか/\あなたを
「それはどうにかなりませうよ。」
虹猫はそつとマンドリンをかき鳴らしながら考へてゐると、突然、大女は気がつきました。
「爺さんは、音楽が好きなんですよ。仕事をするのに大へん助けになるからですつて。だからもし、あなたが外を流してあるく旅音楽師の
虹猫はよろこんで、とび上りました。
「そこだ。それぢや、あなた
大女はすぐ孔雀の羽をもつて来ました。
「どうもありがたう。これであなたは一時間たつたら、自由なからだになりませう。まづそれまで、しばらくさやうなら。」と、言つたかと思ふと、虹猫はひらりと身がるに窓からとび下りました。
それから、すつかり
「どうです。これですつかり旅の音楽師でせう。」と言つて、虹猫は大胆に魔法つかひのゐる塔へ行つて
魔法つかひは自分で戸口に迎ひに出て来ました。けれども、ほんの
「おまへは
「僕は旅の音楽師です。内にはいつて、一曲ひいてはいけませんか。」
魔法つかひはうさん臭さうな目つきをして、「何だおまへ、その袋の中に入れてるものは。」と、きゝながら、足で袋をけりましたから、なかの稲妻が、ガラガラツと大きな音を立てました。
「これですか。」と、虹猫はそ知らぬ顔で答へました。
「これは珍らしい楽器です。だからあんな音を出します。これがなけりや、僕は歌がうたへません。」
「うん、さうか。ぢや一つそこでうたつてごらん。その上で中へ入れるか入れないか、きめるから。」
虹猫はマンドリンをかき鳴らしてうたひました。
青い草の上に、鵞鳥 が一羽、
くちばしが金で羽が銀、こんな美しい鳥は、
誰 もまだ見たことがない。
「うん、面白さうだ、うちにはいつて、あとをうたひなさい。」魔法つかひは、よろこんでうちへ虹猫を入れました。しめたツと、虹猫はいきなり袋をあけて、稲妻をはなしました。ピカ/\、ゴロ/\、大したさわぎです。虹猫は外套をぬぎすて、テイブルの上にとびあがつて、青い目を光らして、フツ/\ニヤオ、ニヤオと叫び立てました。魔法つかひはすつかり閉口して桑原々々とふるへ上つてゐるのを、虹猫は手足をしばつて、袋の中に押込み、そこにあつた魔術の本はみんな火にくべて、焼いてしまひました。魔法つかひはその後、悪いことをしないやうに遠くの国へ追ひやられ、大女は自分の国へ、子供たちはめい/\親のところへ帰りました。くちばしが金で羽が銀、こんな美しい鳥は、