〔冒頭原稿数枚なし〕
「ふん。こいつらがざわざわざわざわ
それから若い
丘の
木霊はそらを見ました。そのすきとおるまっさおの空で、かすかにかすかにふるえているものがありました。
「ふん。日の光がぷるぷるやってやがる。いや、日の光だけでもないぞ。風だ。いや、風だけでもないな。何かこう小さなすきとおる
若い木霊はずんずん草をわたって行きました。
丘のかげに六本の
若い木霊はそっちへ行って高く
「おおい。まだねてるのかい。もう春だぞ、出て来いよ。おい。ねぼうだなあ、おおい。」
風がやみましたので柏の木はすっかり静まってカサッとも云いませんでした。若い木霊はその幹に一本ずつすきとおる大きな耳をつけて木の中の音を聞きましたがどの
「えいねぼう。おれが来たしるしだけつけて置こう。」と云いながら柏の木の下の枯れた
そして
一
それは早くもその蟇の
「
ぽかぽかするなあ。」
若い木霊の胸はどきどきして息はその底で火でも燃えているように熱くはあはあするのでした。木霊はそっと窪地をはなれました。次の丘には
そのまりはとんぼのはねのような小さな黄色の葉から出来ていました。その葉はみんな遠くの青いそらに飛んで行きたそうでした。
若い木霊はそっちに寄って叫びました。
「おいおい、栗の木、まだ
栗の木は
若い木霊はそこで
「おい。この栗の木は貴様らのおかげでもう死んでしまったようだよ。」
やどり木はきれいにかがやいて笑って云いました。
「そんなこと云っておどそうたって
「ふん。お前のような小さなやつがおれについて歩けると思うのかい。ふん。さよならっ。」
やどり木は黄金色のべそをかいて青いそらをまぶしそうに見ながら「さよなら。」と答えました。
若い木霊は思わず「アハアハハハ」とわらいました。その声はあおぞらの
そしてふらふら次の窪地にやって参りました。
その窪地はふくふくした
「はるだ、はるだ、はるの日がきた、」字は一つずつ生きて息をついて、消えてはあらわれ、あらわれては又消えました。
「そらでも、つちでも、くさのうえでもいちめんいちめん、ももいろの火がもえている。」
若い木霊ははげしく鳴る胸を
右の方の象の頭のかたちをした
木霊はまっすぐに降りて行きました。太陽は今越えて来た丘のきらきらの枯草の向うにかかりそのななめなひかりを受けて早くも一本の桜草が咲いていました。若い木霊はからだをかがめてよく見ました。まことにそれは
「お日さんは丘の
そして沈んでまたのぼる。空はもうすっかり鴾の火になった。
さあ、鴾の火になってしまった。」
若い木霊は胸がまるで裂けるばかりに高く鳴り出しましたのでびっくりして
その時向うの丘の上を一
「お前は鴾という鳥かい。」
鳥は
「そうさ、おれは鴾だよ。」といいながら丘の向うへかくれて見えなくなりました。若い木霊はまっしぐらに丘をかけのぼって鳥のあとを追いました。丘の頂上に立って見るとお日さまは山にはいるまでまだまだ間がありました。鳥は丘のはざまの
「おおい。鴾。お前、鴾の火というものを持ってるかい。持ってるなら少しおらに分けて
「ああ、やろう。しかし今、ここには持っていないよ。ついてお
鳥は蘆の中から飛び出して南の方へ飛んで行きました。若い木霊はそれを追いました。あちこち桜草の花がちらばっていました。そして鳥は向うの碧いそらをめがけてまるで矢のように飛びそれから急に石ころのように落ちました。そこには桜草がいちめん咲いてその中から桃色のかげろうのような火がゆらゆらゆらゆら燃えてのぼって居りました。そのほのおはすきとおってあかるくほんとうに
若い木霊はしばらくそのまわりをぐるぐる走っていましたがとうとう
「ホウ、行くぞ。」と叫んでそのほのおの中に飛び
そして思わず
「鴾、鴾、どこに居るんだい。火を少しお呉れ。」
「すきな位持っておいで。」と向うの暗い木立の怒鳴りの中から鴾の声がしました。
「だってどこに火があるんだよ。」木霊はあたりを見まわしながら叫びました。
「そこらにあるじゃないか。持っといで。」鴾が又答えました。
木霊はまた桃色のそらや草の上を見ましたがなんにも火などは見えませんでした。
「鴾、鴾、おらもう帰るよ。」
「そうかい。さよなら。えい
若い木霊は帰ろうとしました。その時森の中からまっ青な顔の大きな木霊が赤い
風のように光のように逃げました。そして丁度前の栗の木の下に来ました。お日さまはまだまだ明るくかれ草は光りました。
栗の木の
「ウワーイ。鴾にだまされた。ウワーイ。鴾にだまされた。」
「何云ってるんだい。
若い木霊は顔のほてるのをごまかして栗の木の幹にそのすきとおる大きな耳をあてました。
栗の木の幹はしいんとして何の音もありません。
「ふん、まだ、少し早いんだ。やっぱり草が青くならないとな。おい。
「さよなら。」とずうっとうしろで