仔牛が
「おい、散歩に出ようぢゃないか。僕がこの
仔牛は
狐が青ぞらを見ては何べんもタンと舌を鳴らしました。
そして二人は
ところが別荘の中はしいんとして煙突からはいつものコルク抜きのやうな煙も出ず鉄の
そこで狐がタン、タンと二つ舌を鳴らしてしばらく立ちどまってから云ひました。
「おい、ちょっとはひって見ようぢゃないか。大丈夫なやうだから。」
「あすこの窓に誰かゐるぢゃないの。」
「どれ、何だい、びくびくするない。あれは公爵のセロだよ。だまってついておいで。」
「こはいなあ、僕は。」
「いゝったら、おまへはぐづだねえ。」
赤狐はさっさと中へ入りました。仔牛も仕方なくついて行きました。ひひらぎの植込みの
赤狐はわき玄関の
「おい、お前の足はどうしてさうがたがた鳴るんだい。」赤狐は振り返って顔をしかめて仔牛をおどしました。仔牛ははっとして
「この
「何だい。こゝは書物ばかりだい。面白くないや。」狐は扉をしめながら云ひました。
「どうしておまへの足はさうがたがた鳴るんだい。第一やかましいや。僕のやうにそっとあるけないのかい。」
狐が又次の室をあけようとしてふり向いて云ひました。
仔牛はどうもうまく行かないといふやうに頭をふりながらまたどこか、なあに僕は人の家の中なんぞ入りたくないんだ、と思ひました。
「何だい、この
狐はだまって今度は
「やかましいねえ、お前の足ったら、何て無器用なんだらう。」狐はこはい
はしご段をのぼりましたら一つの室があけはなしてありました。日が一ぱいに
「さあ、喰べよう。」狐はそれを取ってちょっと
「おい、君もやり
「そばの花の匂もするよ。お食べ。」狐は二つぶ目のきょろきょろした青い肉を吐き出して云ひました。
「いゝだらうか。」僕はたべる
「いゝともさ。」狐はプッと五つぶめの肉を吐き出しながら云ひました。
仔牛はコツコツコツコツと
「うまいだらう。」狐はもう半ぶんばかり食ってゐました。
「うん、大へん、おいしいよ。」仔牛がコツコツ鳴らしながら答へました。
そのとき下の方で
「ではあれはやっぱりあのまんまにして置きませう。」といふ声とステッキのカチッと鳴る音がして
狐はちょっと眼を円くしてつっ立って音を聞いてゐましたがいきなり残りの葡萄の房を一ぺんにべろりとなめてそれから一つくるっとまはってバルコンへ飛び出しひらっと外へ下りてしまひました。仔牛はあわてて室の出口の方へ来ました。
「おや、牛の子が来てるよ。迷って来たんだね。」せいの高い
「おや、誰か葡萄なぞ食って床へ
「この牛の仔にリボン結んでやるわ。」伯爵の二番目の女の子がかくしから黄いろのリボンを出しながら云ひました。