日本語の研究をしてゐるポリテクニツクの学生を紹介された。採鉱や金の専攻らしい。青年の家庭には、父君が外国貿易商であるせゐか、いろ/\珍しい人物が出入してゐた。
お茶の会をするといふので、僕は出かけて行つた。ほんたうをいふと、僕はあまりかういふ場所を好まない。殊にパリへ流れ込んで来てゐる外国人が、容易に出入できるやうな家は、たゞ雑然たるエキゾチズムの刺激があるばかりだ。
主人のA・Mは、当日、アパートメントの入口に立つて、一々来訪者に名簿を差だし、そのサインを
ところで、ポリテクニシヤンの家庭の茶話会はどうか。意外なことには、この席に、安南のプリンスと、日本のテノールがちやんと納まつてゐる。もちろん初対面であるが、不思議な気がした。一座にけい秀画家がゐて、今度のサロンに、そのプリンスをモデルにした肖像を出品したといつてゐる。プリンスは、満足げにその盛上つた小鼻を一段とふくらまして、物好きな女共の鑑賞に身を任してゐる。
やがて、話が北上して日本に来た。
見ると、わがテノールは、ポケツトから二三枚の楽譜を取りだし、イスから起ち上つて、もぢもぢしてゐる。
||君、一寸、この歌の意味をみんなに説明してくれませんか。僕、これから歌ひますから。······。
僕は、困つたことになつたと思つた。だれも歌へとはいはなかつたはずだ。それとも音楽家の敏感な聴覚は、一同の眼付から、その希望を聴き取つたのか。
僕は仕方なく
||この方が、歌を唱はれるさうです。歌の意味はかうです。芭蕉といふ有名な詩人、詳しくいへば、ハイカイの天才が······。
僕は、息がつまりさうになつた。あとは何をいつたか覚えてゐない。僕の説明が、途中でつかへてゐると、耳のそばで割れ鐘のやうな声が響きだした。歌がはじまつたのだ。
僕は