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トントンピーピ

村山籌子




 もうぐらもちはころころころ、おてゝはみぢかし、しつぽはないし、ころころころげてにげたれど、トントンピーピのわるとびに、とうとうおくつをさらはれた。


 こすゞめすゞめは チユウ チユウ チユウ

「チユウ チユウ チユウ チユウ チユウ チユウ チユウ。かあさんすゞめきておくれ。かあさんすゞめきておくれ。わたしのだいじなからかさを、トントンピーピのわるとびが、わるとびが、とうとうさらつてとんでつた。」

 こすゞめすゞめはあめにぬれ、ぬれぬれなけど、ないたけど、かあさんすゞめはやぶのなか。やぶのなか。


 あをい葉ばかりのぐみの木は、あをい葉ばかり、日はてれど、あをい葉ばかりぐみの木は。


「あかいぐみの実をみせとくれ。みせとくれ。」

まつくろくろありがきいたらば

「トントンピーピのわるとびが、これはきれいだ、きれいだと、ほめほめちぎつて、またほめて、ほめほめちぎつてとんでつた。」あをい葉ばかりのぐみの木は、あをい葉ばかりのぐみの木は。


 おひげなくした白ひつじ、あつちへむいちや

「ごめんなさい。」

こつちへむいちや

「ごめんなさい。トントンピーピのわるとびに、おひげとられてごめんなさい。」ともだちひつじにわらはれて、かほはあかあか白ひつじ。

「おひげなくしてごめんなさい。」


「ピーピーピーピー今日は。としよりおうちの、こなやさん。」

「おや おや これはトンピーさん。なにかごやう。トンピーさん。」

 トントンピーピのわるとびは、ぬすんだおくつをひからせて、あかいぐみのみをはねにつけ、白いおひげをはりつけて、はりつけて、からかささしてやつてきた。あめもふらぬにかささして。

「ほんとにごりつぱなトンピーさん。トントンピーピのとんびさん。」

 トントンピーピのわるとびは、としよりおうちにほめられて、ほめられて、つんつんつんとそりかへり、

「としよりうちさんみておくれ。ひかつたおくつをみておくれ、あかいかざりをみておくれ。まつしろおひげをみておくれ。からからからかさみておくれ。」

 としよりおうちはおどろいた。おどろいた。

 ぐみの実、しろひげ、ひかつたくつ、からかさからかさ、大じけん。きのふのしんぶんの大じけん。もうぐらもちはないてるし、こすゞめすゞめはしかられた。かあさんすずめにしかられた。からかさとられてしかられた。かわいさうなぐうみの木。はじかきひつじ、白ひつじ。トントンピーピのわるとんび。きのふのしんぶんの大じけん。

 おくつとられたもうぐらもち、なくなくつちへもぐりこみ、もぐりこみ、一丁目、二丁目、三丁目、四丁目の角へくびだした。四丁目の角はこなやさん。としよりおうちのこなやさん。おくつとられたもぐらもち、四丁目の角へくびだした。

「やあ、やあ、これはぼくのくつ。ぼくのくつ。」トントンピーピのわるとびの、はいてるおくつをそつととり、五丁目、六丁目、七丁目、あともみないでかけだした。


 からかさとられたこすずめが、こなかひにチユウチユウやつてきた。やつてきた。


「これはわたしのからかさだわ。」トントンピーピのわるとびのおいてたからかさそつとさし、そつとさし、こなをかつて チユウ チユウ チユウ、やぶのおうちへとんでつた。


 おひげなくしたしろひつじ、ともだちひつじにわらはれて、おかほあかあかしろひつじ。はじかきひつじがこなぬりに、あかいおかほへこなぬりに、としよりお家のこなやさん、こなやの店へやつてきて、

「やれ、やれ、これはトンピーさん。ぼくのひげだよ。このひげは。」おひげなくしたしろひつじ、はりつけおひげをはいでつた。しろしろしろしろしろひつじ。


 こぼれたこなをえつさつさ えつさ、えつさ、えつさつさ。まつくろくろ蟻えつさつさ。まつくろくろくろくろくろ蟻は、千匹、二千匹、三千匹、ぞろぞろぞろぞろぞろぞろ、トントンピーピのわるとびのはねにかざつたぐみのみを、ぞろぞろぞろぞろもいでつた。あをい葉ばかりのぐみの木へ、ぞろぞろぞろぞろひいてつた。あをい葉ばかりのぐみの木は、ほろほろほろほろなきだした。うれしなきなきなきだした。


 トントンピーピのわるとびは、おくつはないし、ひげもなし、きたないはねにやかざりなし。きまりわるさにピーピーピー トントンピーピーなきだした。


 日はくれがたのうすぐもり、ぽつつり、ぽつつり、大あめが、ぽつつり、ぽつつり、ふつてきた。としよりおうちのこなやさん。としよりおうちは大あわて。

「こなやにや、あめは だいきんもつ、あめのこぬまににげださう。」こなやの、こなやの、としよりおうち、とつとこ、とつとこ、にげだした。とつとことつとこにげだした。

「からかさはどこだ。からかさはどこだ。」トントンピーピーのわるとびは、あめにぬれぬれからかさを、さがしたけれど、からかさは、こすゞめすゞめのやぶのなか、やぶのなか。






底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年11月30日初刷発行

底本の親本:「子供之友」婦人之友社

   1925(大正14)年9月

初出:「子供之友」婦人之友社

   1925(大正14)年9月

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2011年1月24日作成

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