戻る

はちとくま

村山籌子




 一匹の子ぐまが、森のなかから、のこ/\と日あたりのいい、のはらに出てきて、倒れてゐた丸太の上にこしをおろして、うれしさうにフフンとわらひました。

 子熊はふところから、はちみつを入れたつぼをとりだして、ゆびでしやくつて、ちび/\なめはじめました。

「いつたべても、うまいのははちみつだ。はちみつにかぎる。あまくつて、おいしくつて。」とひとりごとを言ひながら、せつせとなめてをりました。

 すると、そこへ、一匹のみつばちが、ブーンととんで来て、子熊の帽子のまはりを、ぐるぐるまひながら、言ひました。

「子熊さん。ぼくは、ほんとに、はらが立つてたまらないよ。」

「何がはらがたつんだ。僕はなんにも、君にわるいことなんかしたおぼえはないよ。」と、子熊は、やつぱり、みつをたべながらこたへました。すると、みつばちは、

「だつて、君、かんがへてみたまへ。君は、僕たちが、長い間、くらうをしてためたみつを、それこそ、べろ/\と、見てゐるうちになめちまうんだもの。これくらゐ、はらのたつことはないよ。」と、羽をふるはせて言ひました。

 子熊は、かう言はれて見ると、何だかはちに、気の毒なやうな気持になりました。そこで、

「はちくん。そんなにおこらないでくれ。そのかはりに、僕は、君をいゝところへつれてつてあげよう。」といつて、子熊ははちを、花の一杯さいてゐる、だれも知らない、谷間へつれて行つてやりました。






底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年11月30日初刷発行

底本の親本:「日本童話選集第一輯」丸善

   1926(大正15)年12月

初出:「子供之友」婦人之友社

   1925(大正14)年6月

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2011年2月10日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





●表記について



●図書カード