大きい森のむかふから、ブルブルブルと小さい音が響いて来ました。木の上でねてゐた
真黒な小人はそれを聞くと、とびおきて、青い着物をきて、赤い帽子をかぶつて音のする方へ飛んでゆきました。
「お月様、今晩は。ずゐ分早くおでかけですね。」と、小人が申しました。ブルブルと音をたててゐたのは赤いお月様でした。
「たくさんの子供たちが、あなたのいらつしやるのをどんなに待つてゐるでせう。さあでかけませう。」と小人は言つて、お月様と二人で森を出て、野原をとほりすぎて、街にまゐりました。
「お月様。街の
灯はどうしてあんなに赤くてきれいなんでせうね。
家にはみんな窓がついて、きれいだなあ。おや、あの
家の窓からかわいゝ女の子が、お月様と
僕とを見て笑つてゐますよ。」と小人が指さしました。
「ほんとに、
私たちの方を見て笑つてゐるやうですね。おや、あれは私の子供ですよ。」とおつしやいました。
「え? ほんとですか。お月様。」と、小人はびつくりしました。
「ほんとですとも。うそと思ふならあすこへ行つてきいてごらんなさい。」と、お月様はお笑ひなさいました。
そこで小人は大いそぎで、一とびに女の子のゐる窓にとびついて、
「今晩は。かわいいお嬢さん。あなたはお月様の子供ださうですが、ほんとですか。」とききますと、女の子は、
「えゝ、さうです。
私はお月様の子供です。」と笑ひました。
「ほんとに、あなたのお顔はお月様のやうにきれいですね。あなたはこの
家で毎日なにをしていらつしやるのですか。この街はほんとに美しい街ですね。」と、小人が聞きました。
「このお
家は
私の
家で 赤いきれや、おもちやや、いろんなおもしろいお話をかいた本をうつてゐるのです。そのなかには、あなたのことも、お月様のこともかいてありますよ。私は毎日、そんなご本をよんだり、お人形をつくつたりしてあそんでゐます。私は、小さい時に、お月様のところから、この
家へもらはれて来たのですよ。これをお月様にさしあげて下さい。」と、女の子は、自分の頭から 赤いリボンをとつて、小人にわたしました。小人はそれをもらつて、またお月様のあとをおつかけました。お月様は女の子にもらつたリボンを、頭におかけになりました。お月様はまるでかわいゝかわいゝ女の子に見えました。
「まあ。お月様。あなたがそのリボンをおかけになるとあの女の子にそつくりですよ。」と、小人が大よろこびで言ひました。お月様もたいへんうれしさうに、その晩中、ニコニコと笑つていらつしやいました。
その晩は
丁度十五夜でした。