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犬さんと、くもさんと、かへるさん

村山籌子




 犬のおばあさんは一人で暮してゐましたが、一人で暮らすのは、大変淋しうございました。お仕事をしてゐても、夜ねてゐても、一人でゐるのはつらいことでした。それで、仲間をさがすことにして、新聞へ広告を出しました。広告文はかうでした。


 わたしハ犬デスガ、年ヲトリマシタノデ、一人デクラスノハ、サミシウゴザイマス。ドナタカ、私ノうちヘ一シヨニ住ンデ下サル方ハアリマセンカ。タヾシ、私ノウチニハ、オ皿トナイフトフオークガ一ツヅヽシカアリマセンカラ、オイデ下サル方ハ、ドウゾ、ゴジブンノオ皿ト、ナイフト、フオークヲモツテイラシツテ下サイ。イツモ、オイシイゴチサウヲタベサセテアゲマス。

東京、犬小屋町 犬山クロ子


 この広告文をみて、お皿と、ナイフと、フオークを持つてやつて来たのがくもさんでした。くもさんは二階に住むことになりました。おばあさんは大変よろこびました。けれども二人目にやつて来たのがかへるさんでした。かへるさんは、あんまり急いで来たものですから、お皿と、ナイフとフオークを持つてくるのを忘れました。

 おばあさんも、くもさんも、大変こまりました。すると、かへるさんが言ひました。

「おばあさん、くもさん、ちつともお困りになることはありません。私は、皆さんがめしあがつたあとのお皿を借して頂きますから、大丈夫です。」

 すると、くもさんと、おばあさんは手を打つて、胸をなで下しました。

「それは、全くいゝ考へです。」と。

 三人は仲よくくらしました。






底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年11月30日初刷発行

底本の親本:「日本童話選集第二輯」丸善

   1927(昭和2)年12月

初出:「子供之友」婦人之友社

   1926(大正15)年10月

※初出時の表題は「犬と、くもと、かへる」です。

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2011年2月10日作成

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