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かくれんぼ

村山籌子




 ある日、小ぐまさんとあひるさんが、かくれんぼをして遊びました。

 ジヤンケンをして小ぐまさんが負けました。小ぐまさんは、あひるさんがむかふのお部屋に行つてゐる間に、机の下にもぐり込みました。

 机の下にかくれた小ぐまさんは、あひるさんの来るのをどんなに待つたことでせう。一時間はたつぷりじつとしてゐました。それだのに、あひるさんは、まだ、さがしに来ないのです。

 小ぐまさんは、まつくらな、せまい所でしやがんでゐるものですから、足や手が痛くなつて来ました。小ぐまさんは、腹が立つて、腹が立つてたまらなくなりました。そして、かくれんぼなんぞしちまへ、と思つて、机の下からひ出ようとしましたが、あひるさんに見付かると、せつかく、今まで辛抱したのが、無駄になるので我慢しました。

    ×             ×

 さて、あひるさんは、お隣の部屋で何をしてゐたのでせう。このあひるさんは、とても、わすれつぽいあひるさんだつたものですから、小ぐまさんとかくれんぼをしてゐることをすつかり忘れてしまつて、おしやれをしてゐたのです。あひるさんは、女の子だつたからです。まづお母様の洋服を着て、おくつをはいて、その次にお帽子をかぶつて、パラソルをひろげて部屋から、外に出かけながら、かう大きな声で小ぐまさんに言ひました。

「小ぐまさん、私は、これから散歩に行つて来ます。」そして、どん/\外にかけて行つてしまひました。

 小ぐまさんは、それを聞いて、

「僕も一しよに行きたい。」と言ひさうになりましたが、あひるさんにつかまると困ると思つたので、あわてゝお口にふたをしました。それから、小ぐまさんは何時間、そこで、じつとしてゐたことでせう。

 たうとう、夜になりました。


 それでも小ぐまさんは、もう一寸ちよつとの辛抱だ、もう一寸の辛抱だと思つて、我慢をしてゐました。何故なぜといへば、こんな、誰にも分らないやうな上手なかくれ場所を見付けたのですもの、小ぐまさんは、あひるさんに、それを自慢してやらなければ、つまらぬからです。

 すると、やがて、窓が開く音がしました。そして、誰だか高い窓から飛んではいつて来て、又、出て行つたやうなのです。

 小ぐまさんは、その音を聞いてゐるうちに、すつかり、かくれんぼをしてゐるといふことを忘れてしまひました。そして、そつと、机の下から這ひ出して行きました。そして、机の上を見ました。

 けれども、その机の上には、真白なナフキンがかぶさつてゐるので、小ぐまさんにも、又、このお話を書いてゐる私にさへも分らないのです。

 すると、そのナフキンの下から、小さな声がしました。それは、

「私は、お月様です。」と聞えました。

 小ぐまさんは、それを聞いて大変よろこんで申しました。

「ナフキンの下にいらつしやるお月様、どうぞ、よく光つて、このくらいお部屋を明るくして下さい。」と申しました。

 すると、ナフキンが、ピク/\動いたと思ふと、ナフキンの下から光がさして、お部屋が明るくなりました。

 その時、丁度、忘れつぽいあひるさんが散歩から帰つて来ました。小ぐまさんは、あひるさんに、とびついて喜びました。

 そして、二人で、机の上のナフキンをそつとどけましたら、お月様はいらつしやらないで、白い西洋皿に、おいしいおいしいごちさうが、山のやうに盛つてありました。

 そのごちさうがあまりおいしかつたので、二人は、かくれんぼの事は、すつかり忘れてしまひました。






底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年11月30日初刷発行

底本の親本:「日本童話選集第三輯」丸善

   1928(昭和3)年12月

初出:「子供之友」婦人之友社

   1927(昭和2)年6月

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2011年8月16日作成

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