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あひるさん の かみのけ

村山籌子




 あるところに、大へんおとなしい一羽のあひるさんがありました。ちひさくてまだ手が頭にとゞきません。毎朝髪をゆつてもらはねばなりませんでした。

 あひるさんには、おぢいさんだけしかないので、おぢいさんに髪をゆつてもらふのでしたが、おぢいさんは男で、おまけに大へんなとしよりでしたから、あひるさんの髪をあまりハイカラにはゆつてやれないのでした。

 毎朝、あひるさんは鏡のまへで、横をむいたり前をむいたりして髪の形をながめましたが、いつでも油で髪がかたまつて、頭のてつぺんの所できつく結はへてあるので、目をしばたたくこともできないくらゐ引きつつてゐるのでした。

 ある日、あひるのおばさんが、たづねてきて、大笑ひに笑ひだしました。

「なんてまあ、変てこな髪だこと。」しかし、その時、あひるのおぢいさんが、ぷくんとおこつたやうな顔をしたので、

「私が、うまくゆつてあげませう。」と言ひかけましたが、そのまゝ、それをのどのおくへひつこめてしまひました。かわいさうなあひるさん。

 あひるさんは、それからといふもの、ごはんもろくに食べられないくらゐに、悲しみました。

 あひるさんのおぢいさんは、一生けんめい考へて、こてをかつてきて、髪をちゞらせてやりました。

 これで、やつと、あひるさんは、ハイカラになりました。それで、ごはんは前の二倍くらゐたべるやうになりました。ずいぶん運のいいあひるさん。






底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年11月30日初刷発行

底本の親本:「子供之友」婦人之友社

   1928(昭和3)年4月

初出:「子供之友」婦人之友社

   1928(昭和3)年4月

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2011年3月29日作成

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