戻る

うさぎさん と おほかみさん

村山籌子




 うさぎさんが散歩してゐました。もうなつになりかけでしたから、きれいな花が咲いてゐました。そしていゝにほひがしてゐました。

 一人で歩くのは、うさぎさんには、初めてです。なぜといつて、うさぎさんは小学校の二年生でしたから。一人だつたので、とてもこわかつたのでした。うさぎさんは大変背がひくいでせう。ですから、鼻の先に見えるものは、草と、葉ばかりでしたから、ずつと前や、うしろから、何が出てくるか、ちつともわかりません。

 ところが、うしろのはうで、がさがさといふ音がしたのです。うさぎさんは胸の中がひつくりかへるほどびつくりしました。

 がさがさいふ音が、とてもひどく、ちかくなりました。そして、うしろをふりむいてみましたら、毛だらけの、目が二つあつて、口の大きなものが、ちらりと見えました。

 うさぎさんは、

「どうぞ、ごめんなさい。わたしはとてもよい子ですから。」と いはうとおもひましたけれど、声が出ませんでした。それで、どんどん逃げ出しました。

 すると、うさぎさんのあとから、おほかみさんが一匹とび出して来て、うさぎさんをおつかけました。

 うさぎさんは、どんどんかけました。おほかみさんもどんどんおつかけました。

 うさぎさんは、おしまひにあしがうごかなくなつて、たほれました。おほかみさんが、うさぎさんをつかまへました。

「ぼくだよ。うさぎくん。」とおほかみさんがいひました。よく見ると、学校で同じ級のおほかみさんだつたのです。

 うさぎさんは、どんなにうれしかつたでせう。それからのち二人は、とても仲のよいお友達になりました。






底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年11月30日初刷発行

底本の親本:「子供之友」婦人之友社

   1930(昭和5)年7月

初出:「子供之友」婦人之友社

   1930(昭和5)年7月

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2011年5月3日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





●表記について



●図書カード