むかし、一人の旅人が、
「もうし、旅のお人。」
といふ声がします。見ると、いつどこからとも知らず、一人のうつくしい顔した子どもが舟をこぎよせてゐるのでした。
「渡しのコン
といひますので、
「御用は大有りだ。早くわたしてくれ。」
と旅人は舟にとび乗りますと、子どもは
なんだ、
「さてコン助さんとやら、渡し賃に小判一両あげる。さあさ、遠慮なく受けとりな。このあたりには、よく狐めがゐて人を
コン助は、えらく恐入つたやうすをしてゐましたが、きふに、旅人の手から
それから、旅人は道をいそいで、夕方宿場へつきました。宿をとらうと思ひまして、目にとまつたはたご屋の門をくゞりますと、宿のあるじは旅人のすがたをつくづく見て、
「さきほど、お知り合の方だと申されて、うつくしげなお子供衆から、これをおあづかりしました。」
といつて状箱のやうなものを出しました。
「わしは、この辺には知り合なぞない
とふしんに思ひながら、その状箱のやうのやうなものをあけてみますと、
サツキハ、バケソコネテ、ヲカシカツタダロ、コバンハ、カヘシテヤルヨ、コンスケ。
としたゝめて、みごとな小判が一枚入つてゐました。
さては
狐の手紙は、あるじがもらひうけて、家の宝にしてあるとかいふ話であります。