「わしにもおくれ」
と云うので、採っていた虎杖を二つ三つやると、老人は皮も除らないでべろりと
「もうすこし、おくれよ」
と云った。そこで又二つ三つやると、又ぺろりと喫ってしまって、
「わしは、虎杖が好きで好きでたまらない、どっさりある処へ
と云った。子供だちは舌切雀のお爺さんのような人の良さそうな老人に、すっかり懐いているので、
「杉林の方へ往くとあるわよ」
と云って、老人を伴れて汽車の線路づたいに往った。往っていると小溝が流れていた。子供だけは
「こんな大きな川は、わしには飛べない」
と云った。子供だちは老人の云う事があまりおおげさであるから、おかしくてたまらなかった。
「飛べないなんてお爺さんは弱虫ねえ、こんなとこ、何でもない事よ」
と云って、皆で老人の手を
「さあ、褒美にあげるよ」
と云って、皆に一枚ずつくれた。そして、蟇口をしまいこむなり、そこへ這いつくばって虎杖を喫いだした。子供だちは老人が夢中になって虎杖を喫う
その時はもう夕方で、
「帰ろうよ」
「お母さんに叱られるわ」
そこで子供だちが帰ろうとすると、それまで子供だちの事は忘れたようにして虎杖を喫っていた老人が、不意に顔をあげて、
「わしの家は、どこだよ」
と云った。老人が変な事を云ったので、子供だちは老人が怖くなった。子供だちは
「きつね、きつね、きつね」
と云って体を起すなり、べたんと
「触るな、触るな、触るな」
と
「頼む、頼む、此のとおり頼む、頼む」
と云うので、子供だちは意味は判らないが逃げる事もできないので、遠くから老人の方を見ているうちに、子供の一人が、
「きつねだア」
と云って逃げだしたので、他の子供だちも口ぐちに
子供だちの奇怪な話を聞いて、
「おい、どうしたのだ、おい」
と云って声をかけると、死んだようになっていた老人は、
「おかしな奴だな」
「なんだ、あれは」
村の者は老人の正体を突きとめようと思って追っかけたが、別に悪いこともしていないから、悪人を追っかけるように追っかけることもできない。そこで足をゆるめると、老人も足をゆるめて、