小説家の山中峯太郎君が、広島市の
幟町にいた
比のことであった。それは山中君がまだ九つの時で、
某夜近くの女学校が焼けだしたので、家人は裏の畑へ往ってそれを見ていた。その時山中君は、ただ一人台所へ往って立っていたが、何かしら悪寒を感じて眼をあげた。と、すぐ頭の上の天井から不意に大きな足がぶらさがった。それはたしかに人間の足で、
婢室の灯をうけて肉の色も毛の生えているのもはっきりと見えていたが、その指が大人の腕ぐらいあった。山中君は怖いと云うよりもただ
呆気にとられてそれを見つめていた。と、二三分も経ったかと思う比、その足が
烟のようにだんだんと消えてしまった。