芝公園大門
脇に『わかもと』の
本舗がある。その『わかもと』の事務所は、寺院の一部であった。
観相家の松井
桂陰君が
某時その『わかもと』の
某君を訪問した時、
「あなたのところは、どうしてこんなところに事務所を置くのですか」
と云って訊いてみると、
「これには面白い話があるよ」
と冒頭して話した。
「わかもと」の主人長尾
欽弥君がそこへ入って、製薬に
著手した時には、貧乏のどん底であったが、
忽ちめきめきと発展を遂げたので、狭くはあるし、寺の中にいるのも
厭だから、
他へ移転しようと思って、それを住職に話したところで、住職が因縁話をしてそれを
留めた。それはここへ入った者で失敗した者がない。伊東
胡蝶園もここへ入って金を作った。その次に入ったのが不動銀行の牧野
元次郎君であった。だから引越さない方がいいだろうと云うので、何千万円と云う大資産を作り、店は
倍繁昌して狭い寺の中では不自由であるが、それで出ないとの事であった。