わたくしはあるひとから
云いつけられて、この手紙を
印刷してあなたがたにおわたしします。どなたか、ポーセがほんとうにどうなったか、知っているかたはありませんか。チュンセがさっぱりごはんもたべないで毎日考えてばかりいるのです。
ポーセはチュンセの小さな妹ですが、チュンセはいつもいじ
悪ばかりしました。ポーセがせっかく
植えて、水をかけた小さな
桃の木になめくじをたけておいたり、ポーセの
靴に
甲虫を
飼って、
二月もそれをかくしておいたりしました。ある日などはチュンセがくるみの木にのぼって青い
実を
落していましたら、ポーセが小さな
卵形のあたまをぬれたハンケチで
包んで、「兄さん、くるみちょうだい。」なんて
云いながら大へんよろこんで出て来ましたのに、チュンセは、「そら、とってごらん。」とまるで
怒ったような声で
云ってわざと頭に実を
投げつけるようにして
泣かせて帰しました。
ところがポーセは、十一月ころ、
俄かに
病気になったのです。おっかさんもひどく
心配そうでした。チュンセが行って見ますと、ポーセの小さな
唇はなんだか青くなって、
眼ばかり大きくあいて、いっぱいに
涙をためていました。チュンセは声が出ないのを
無理にこらえて
云いました。「おいら、何でも
呉れてやるぜ。あの
銅の
歯車だって
欲しけややるよ。」けれどもポーセはだまって頭をふりました。
息ばかりすうすうきこえました。
チュンセは
困ってしばらくもじもじしていましたが思い切ってもう一ぺん
云いました。「
雨雪とって来てやろか。」「うん。」ポーセがやっと答えました。チュンセはまるで
鉄砲丸のようにおもてに
飛び出しました。おもてはうすくらくてみぞれがびちょびちょ
降っていました。チュンセは
松の木の
枝から雨雪を
両手にいっぱいとって来ました。それからポーセの
枕もとに行って
皿にそれを
置き、さじでポーセにたべさせました。ポーセはおいしそうに
三さじばかり
喰べましたら
急にぐたっとなっていきをつかなくなりました。おっかさんがおどろいて
泣いてポーセの名を
呼びながら
一生けん
命ゆすぶりましたけれども、ポーセの
汗でしめった
髪の頭はただゆすぶられた通りうごくだけでした。チュンセはげんこを
眼にあてて、
虎の
子供のような声で泣きました。
それから春になってチュンセは学校も六年でさがってしまいました。チュンセはもう
働いているのです。春に、くるみの木がみんな青い
房のようなものを下げているでしょう。その下にしゃがんで、チュンセはキャベジの
床をつくっていました。そしたら土の中から一ぴきのうすい
緑いろの小さな
蛙がよろよろと
這って出て来ました。
「かえるなんざ、
潰れちまえ。」チュンセは大きな
稜石でいきなりそれを
叩きました。
それからひるすぎ、
枯れ草の中でチュンセがとろとろやすんでいましたら、いつかチュンセはぼおっと黄いろな野原のようなところを歩いて
行くようにおもいました。すると
向うにポーセがしもやけのある小さな手で
眼をこすりながら立っていてぼんやりチュンセに
云いました。
「兄さんなぜあたいの青いおべべ
裂いたの。」チュンセはびっくりしてはね
起きて一生けん命そこらをさがしたり考えたりしてみましたがなんにもわからないのです。どなたかポーセを知っているかたはないでしょうか。けれども
私にこの手紙を云いつけたひとが云っていました「チュンセはポーセをたずねることはむだだ。なぜならどんなこどもでも、また、はたけではたらいているひとでも、汽車の中で
苹果をたべているひとでも、また歌う鳥や歌わない鳥、青や黒やのあらゆる魚、あらゆるけものも、あらゆる虫も、みんな、みんな、むかしからのおたがいのきょうだいなのだから。チュンセがもしもポーセをほんとうにかあいそうにおもうなら大きな
勇気を出してすべてのいきもののほんとうの
幸福をさがさなければいけない。それはナムサダルマプフンダリカサスートラというものである。チュンセがもし勇気のあるほんとうの男の子ならなぜまっしぐらにそれに
向って
進まないか。」それからこのひとはまた
云いました。「チュンセはいいこどもだ。さァおまえはチュンセやポーセやみんなのために、ポーセをたずねる手紙を出すがいい。」そこで私はいまこれをあなたに
送るのです。