本書に収められてるものは、私が書いたすべての随筆や感想の中から選択されたものである。
||但し、このすべてということには、聊かの制限がある。終戦後に書かれたものを中心とする随筆感想集「文学生活」というのが、本書よりは恐らく二ヶ月ばかり以前に世に出るであろう。この「文学生活」との内容の重複は、「故郷」と題する短文一つを除いて、厳に避けられている。
随筆や感想の類は、言うまでもなく、時に随い事に触れて書かれるもので、これを読むのにその執筆日付が大切になることもある。だが、私としては、執筆日付の大切なような種類のものは、なるべく打ち捨てて書物に収録しないことにしている。
||だから、多年に亘って執筆されたものの中から編纂されたこの書物も、現在に通用しないこともあるまいと考えるのである。
文学者の眼、思惟や感情の基調、つまり素面は、小説などの作品によりも、随筆や感想に、より多く素直に露呈されてることであろう。その私の素面に、八雲書店の編輯部が如何なる興味を持ったか、それは私の知らないところであるが、とにかく、出版を承諾して貰えるならば編輯はこちらでやっても宜しいという申し出であった。
このようにして本書は出来た。内容の選択から配列に至るまで、つまり編輯全体が、右編輯部に於てなされた。主として、久保田正文、荻野悌、亀島貞夫、などの人々の手を煩わしたらしく思われる
||斯く言うことは、著者として甚だ無責任のようであるが、実は、右の諸氏を読者代表として、その手に本書の編成を一任してみたかったのである。編成なって、私は感謝の意をこの後記に託する。