旅は二日道連は二人旅行道具は足二本ときめて十二月七日朝例の翁を本郷に訪ふて小春のうかれありきを促せば風邪の鼻すゝりながら俳道修行に出でん事本望なりとて共に新宿さしてぞ急ぎける。
鳴雪
八王子に下りて二足三足歩めば大道に群衆を集めて聲朗かに呼び立つる獨樂まはしは昔の仙人の面影ゆかしく負ふた子を枯草の上におろして無慈悲に叱りたるわんぱくものは未來の豐太閤にもやあるらん。田舍といへば物事何となくさびて風流の材料も多かるに
府中にてひなびたる料理やにすき腹をこやし六所の宮に詣づ。饅頭に路を急ぎ國分寺に汽車を待ちて新宿に著く頃は定めなき空淋しく時雨れて田舍さして歸る馬の足音忙しく聞ゆ。