「汐くみ」は私としては相当に苦心を費やし、努力を払うた作品でございます。殊にこの画について心を用いた点は色調でございました。しかしいったいの釣合をとるためには、幾遍も素描をやり直しまして、自分自身でやや満足出来るものに致しましてから、本当に筆を執ったのでございます。
この画は、大作ではありませんけれども、全体に於て私自身の
「汐くみ」は舞踊でございまして、なかなか優美なものです。
いわゆる旧来の美人画は、画の批評家達はその芸術価値についていろいろ申されますが、私はこの特異の純日本風美人画を亡ぼすことが心に忍びません。もちろん時代の趨勢でございますから、新しい美人画||美人画と言いましょうか、兎に角女性画の描写法の変ってゆくことは当然でございます。けれど同時に私は、旧来の日本風の美人画というものを亡ぼしたくないと存じます、亡ぼしたくはないばかりか、先輩の大家方や後進の人々が、もう少し美人画というものを認めて、奨励もし研究もして頂きたいと思います。
「汐くみ」は私が相当努力を払った作品と申しました。もっとも私は従来とても、胡魔化しや間に合わせの画は、なるべく描いたことはございません。今度の大震災で人心が一変し、画家も従来のような間に合わせの画では、とても認められないと申す方もございますが、私は私として、