秀吉
金冠を
戴きたりといえども五右衛門
四天を着けたりといえども
猿か
友市生れた時は同じ
乳呑児なり
太閤たると
大盗たると
聾が聞かば
音は
異るまじきも変るは
塵の世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは
阿房陀羅経もまたこれを説けりお
噺は山村
俊雄と申すふところ育ち団十菊五を島原に見た帰り
途飯だけの突合いととある二階へ連れ込まれたがそもそもの
端緒一向だね一ツ献じようとさされたる
猪口をイエどうも私はと一言を三言に分けて迷惑ゆえの辞退を、酒席の憲法恥をかかすべからずと
強いられてやっと受ける
手頭のわけもなく
顫え半ば
吸物椀の上へ
篠を
束ねて降る
驟雨酌する女がオヤ失礼と軽く出るに俊雄はただもじもじと
箸も取らずお
銚子の代り目と出て行く後影を見澄まし洗濯はこの間と怪しげなる
薄鼠色の
栗のきんとんを一ツ
頬張ったるが関の山、
梯子段を登り来る足音の早いに驚いてあわてて
嚥み下し
物平を得ざれば胃の
腑の必ず鳴るをこらえるもおかしく
同伴の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒口俊雄はこのごろ
喫み覚えた煙草の
煙に紛らかしにっこりと受けたまま返辞なければ往復
端書も駄目のことと
同伴の男はもどかしがりさてこの土地の奇麗のと言えば、あるある島田には間があれど
小春は
尤物介添えは
大吉婆呼びにやれと命ずるをまだ来ぬ先から俊雄は卒業証書授与式以来の胸
躍らせもしも
伽羅の香の間から扇を挙げて
麾かるることもあらば返すに
駒なきわれは何と答えんかと予審廷へ出る心構えわざと
燭台を
遠退けて顔を見られぬが一の手と
逆茂木製造のほどもなくさらさらと
衣の音、それ来たと俊雄はまた顫えて天にも地にも頼みとするは後なる床柱これへ
凭れて腕組みするを海山越えてこの土地ばかりへも二度の
引眉毛またかと言わるる大吉の目に入りおふさぎでござりまするのとやにわに打ちこまれて俊雄は縮み上り
誠恐誠惶詞なきを
同伴の男が助け上げ今日
観た芝居
咄を座興とするに俊雄も少々の
応答えが出来夜深くならぬ間と心むずつけども同伴の男が容易に立つ
気色なければ大吉が三十年来これを商標と
磨いたる額の
瓶のごとく
輝るを気にしながら
栄えぬものは浮世の義理と
辛防したるがわが前に余念なき小春が
歳十六ばかり色ぽッてりと白き丸顔の
愛敬溢るるを何の気もなく
瞻めいたるにまたもや大吉に
認けられお前にはあなたのような
方がいいのだよと彼を抑えこれを揚ぐる画策縦横大英雄も善知識も
煎じ詰めれば女あっての
後なりこれを聞いてアラ
姉さんとお定まりのように打ち消す小春よりも俊雄はぽッと顔
赧らめ男らしくなき
薄紅葉とかようの場合に小説家が紅葉の恩沢に浴するそれ幾ばく、着たる糸織りの
襟を内々直したる初心さ小春俊雄は
語呂が悪い
蜆川の
御厄介にはならぬことだと
同伴の男が
頓着なく混ぜ返すほどなお
逡巡みしたるがたれか知らん異日の治兵衛はこの俊雄
今宵が
色酒の
浸初め
鳳雛麟児は母の胎内を
出でし日の仮り名にとどめてあわれ評判の秀才もこれよりぞ無茶となりける
試みに馬から落ちて落馬したの口調にならわば二つ寝て二ツ起きた二日の後俊雄は割前の金届けんと
同伴の
方へ出向きたるにこれは頂かぬそれでは困ると世間のミエが
推っつやっつのあげくしからば今
一夕と
呑むが願いの同伴の男は七つのものを八つまでは
灘へうちこむ
五斗兵衛が
末胤酔えば三郎づれが鉄砲の音ぐらいにはびくりともせぬ
強者そのお相伴の御免
蒙りたいは万々なれどどうぞ御近日とありふれたる送り詞を、契約に片務あり果たさざるを得ずと思い出したる俊雄は早や
友仙の
袖や
袂が
眼前に
隠顕き賛否いずれとも決しかねたる
真向からまんざら小春が憎いでもあるまいと遠慮なく
発議者に
斬り込まれそれ知られては行くも
憂し行かぬも憂しと
肚のうちは一上一下虚々実々、
発矢の二三十も
列べて
闘いたれどその間に足は
記憶ある二階へ
登り花明らかに鳥何とやら書いた額の下へついに落ち着くこととなれば六十四条の解釈もほぼ定まり
同伴の男が隣座敷へ出ている小春を幸いなり
貰ってくれとの
命令畏まると立つ女と入れかわりて今日は黒出の
着服にひとしお器量
優りのする小春があなたよくと末半分は消えて行く
片靨俊雄はぞッと可愛げ立ちてそれから二度三度と
馴染めば馴染むほど小春がなつかしく
魂いいつとなく
叛旗を翻えしみかえる限りあれも小春これも小春
兄さまと呼ぶ
妹の声までがあなたやとすこし甘たれたる小春の声と疑われ今は同伴の男をこちらからおいでおいでと
新田足利勧請文を向けるほどに二ツ切りの紙三つに折ることもよく
合点しやがて本文通りなまじ同伴あるを邪魔と思うころは紛れもない下心、いらざるところへ勇気が出て敵は川添いの裏二階もう
掌のうちと単騎
馳せ向いたるがさて行義よくては成りがたいがこの辺の
辻占淡路島通う千鳥の幾夜となく音ずるるにあなたのお手はと逆寄せの当坐の
謎俊雄は至極御同意なれど
経験なければまだまだ心
怯れて宝の山へ入りながらその手を
空しくそっと引き退け酔うでもなく
眠るでもなくただじゃらくらと
更けるも知らぬ夜々の長坐敷つい出そびれて帰りしが山村の
若旦那と言えば
温和しい方よと小春が顔に花散る
容子を
御参なれやと大吉が例の額に
睨んで
疾から吹っ込ませたる浅草市羽子板ねだらせたを胸三寸の道具に数え、
戻り
路は
角の
歌川へ
軾を着けさせ俊雄が受けたる
酒盃を小春に
注がせてお
睦まじいと

より
易い世辞この手とこの手とこう合わせて
相生の松ソレと突きやったる
出雲殿の代理心得、間、髪を
容れざる働きに俊雄君閣下初めて天に昇るを得て小春がその
歳暮裾曳く
弘め、用度をここに仰ぎたてまつれば上げ下げならぬ大吉が
二挺三味線つれてその
節優遇の意を
昭らかにせられたり
おしゅんは伝兵衛おさんは茂兵衛小春は俊雄と相場が
極まれば望みのごとく浮名は広まり
逢うだけが命の四畳半に差向いの
置炬燵トント
逆上まするとからかわれてそのころは
嬉しくたまたまかけちがえば互いの名を右や左や灰へ
曲書き一里を千里と帰ったあくる夜千里を一里とまた出て来て顔合わせればそれで気が済む
雛さま事罪のない遊びと歌川の内儀からが評判したりしがある夜会話の欠乏から容赦のない
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崇り今し方明いて参りましたと
着更えのままなる
華美姿名は実の
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頸筋元からじわと真に受けお前には大事の色がと言えばござりますともござりますともこればかりでも青と黄と
褐と
淡紅色と
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媒妁それなりけりの寝乱れ髪を口さがないが習いの土地なれば小春はお染の母を学んで風呂のあがり場から早くも聞き伝えた緊急動議あなたはやと千古不変万世不朽の
胸づくし鐘にござる数々の
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膝へ
敲きつけお前は野々宮のと勝手馴れぬ俊雄の
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憂い嬉しいもあなたと限るわたしの心を
摩利支天様聖天様不動様妙見様
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性悪者めと
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死者の首を斬るよりも易しと
鯤、
鵬となる大願発起痴話
熱燗に骨も肉も
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瞰下した隣の
桟橋に歳十八ばかりの
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矢飛白の袖夕風に吹き
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弟じゃの
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尾がそれとなく報酬の
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明日と詞
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撲いた吸殻、落ちかけて落ちぬを何の
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弗函の代表者顔へ
紙幣貼った旦那殿はこれを
癪気と見て紙に
包んで帰り際に残しおかれた
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倶浮れ四十八の
所分も授かり融通の及ぶ限り借りて借りて皆持ち寄りそのころから母が涙のいじらしいをなお暁に間のある俊雄はうるさいと家を
駈け出し当分冬吉のもとへ御免
候え会社へも欠勤がちなり
絵にかける女を見ていたずらに心を動かすがごとしという
遍昭が歌の生れ変り
肱を落書きの墨の
痕淋漓たる
十露盤に突いて湯銭を貸本にかすり
春水翁を地下に
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禽語楼のいわゆる
実母散と
清婦湯他は一度女に食われて後のことなり俊雄は冬吉の家へ
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竪縞の
温袍を
纏い幅員わずか二万四千七百九十四方里の孤島に生れて論が合わぬの議が合わぬのと江戸の
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詮索に日を消すより極楽は
瞼の合うた一時とその能とするところは呑むなり酔うなり
眠るなり自堕落は馴れるに早くいつまでも血気
熾んとわれから信用を
剥いで
除けたままの皮どうなるものかと
沈着きいたるがさて
朝夕をともにするとなればおのおのの心易立てから
襤褸が現われ俊雄はようやく冬吉のくどいに飽いて抱えの小露が
曙染めを出の座敷に着る
雛鶯欲のないところを聞きたしと待ちたりしが
深間ありとのことより離れたる旦那を前年度の
穴填めしばし袂を返させんと冬吉がその客筋へからまり天か命か家を俊雄に預けて
熱海へ出向いたる留守を幸いの
優曇華、機乗ずべしとそっと小露へエジソン氏の労を煩わせば姉さんにしかられまするは
初手の口
青皇令を
司どれば厭でも開く
鉢の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば
阿漕浦に真珠を
獲て言うなお前言うまいあなたの安全器を
据えつけ発火の予防も施しありしに
疵もつ足は冬吉が帰りて後一層目に立ち小露が先月からのお約束と出た跡尾花屋からかかりしを冬吉は断り
発音はモシの二字をもって俊雄に向い白状なされと不意の
糺弾俊雄はぎょッとしたれど横へそらせてかくなる上はぜひもなし白状致します私母は
正しく女とわざと手を突いて言うを、ええその口がと畳
叩いて小露をどうなさるとそもやわたしが馴れそめの始終を冒頭に置いての責道具ハテわけもない
濡衣椀の
白魚もむしって食うそれがし
鰈たりとも
骨湯は頂かぬと往時権現様得意の逃支度冗談ではござりませぬとその夜冬吉が
金輪奈落の底尽きぬ腹立ちただいまと小露が座敷戻りの
挨拶も
長坂橋の
張飛睨んだばかりの勢いに小露は顫え上りそれから明けても三国割拠お互いに気まずく笑い声はお隣のおばさんにも下し賜わらず長火鉢の前の
噛楊子ちょっと聞けば悪くないらしけれど気がついて見れば見られぬ
紅脂白粉の花の裏路今までさのみでもなく思いし冬吉の眉毛の
蝕いがいよいよ別れの催促客となるとも色となるなとは今の
誡めわが
讐敵にもさせまじきはこのことと俊雄ようやく夢
覚めて父へ
詫び入り元のわが家へ立ち帰れば喜びこそすれ
気振りにもうらまぬ母の慈愛厚く
門際に寝ていたまぐれ犬までが尾をふるに俊雄はひたすら
疇昔を悔いて
出入りに世話をやかせぬ
神妙さは遊ばぬ
前日に三倍し
雨晨月夕さすが思い出すことのありしかど末のためと目をつぶりて折節橋の上で聞くさわぎ唄も
易水寒しと通りぬけるに冬吉は
口惜しがりしがかの歌沢に申さらく
蝉と
螢を
秤にかけて鳴いて別りょか焦れて
退きょかああわれこれをいかんせん昔おもえば見ず知らずとこれもまた寝心わるく
諦めていつぞや聞き流した誰やらの異見をその時初めて
肝のなかから探り
出しぬ
観ずれば松の
嵐も続いては吹かず息を入れてからが
凄まじいものなり俊雄は二月三月は殊勝に
消光たるが今が遊びたい盛り山村君どうだねと下地を見込んで誘う水あれば、御意はよし
往なんとぞ思う俊雄は馬に
鞭御同道
仕つると臨時総会の下相談からまた狂い出し名を変え風俗を変えて元の土地へ入り込み
黒七子の長羽織に
如真形の
銀煙管いっそ悪党を売物と
毛遂が
嚢の
錐ずっと突っ込んでこなし廻るをわれから悪党と
名告る悪党もあるまいと俊雄がどこか
俤に残る
温和振りへ目をつけてうかと口車へ腰をかけたは解けやすい雪江という二十一二の
肌白村様と聞かば遠慮もすべきに今までかけちごうて逢わざりければ俊雄をそれとは思い寄らず一も二も明かし合うたる姉分のお霜へタッタ一日あの方と遊んで見る知恵があらば貸して下されと頼み入りしにお霜は承知と呑み込んで俊雄の耳へあのね尽しの電話の
呼鈴聞えませぬかと
被せかけるを
落魄れても白い物を顔へは塗りませぬとポンと突き退け二の矢を継がんとするお霜を
尻目にかけて俊雄はそこを立ち出で供待ちに
欠伸にもまた節奏ありと研究中の金太を先へ帰らせおのれは顔を知られぬ橋手前の
菊菱おあいにくでござりまするという雪江を二時が三時でもと待ち受けアラと驚く縁の
附際こちらからのように
憑せた首尾電光石火早いところを雪江がお霜に誇ればお霜はほんとと口を明いてあきるること
曲亭流をもってせば
半
ばかりとにかく大事ない顔なれど
潰されたうらみを言って言って言いまくろうと俊雄の跡をつけねらい、それでもあなたは済みまするか、済まぬ済まぬ真実済まぬ、きっと済みませぬか、きっと済みませぬ、その済まぬは誰へでござります、先祖の助六さまへ、何でござんすと振り上げてぶつ真似のお霜の手を俊雄は
執らえこれではなお済むまいと恋は追い追い下へ落ちてついにふたりが水と魚との
交を隔て脈ある間はどちらからも血を吐かせて雪江が見て下されと
紐鎖へ打たせた山村の定紋負けてはいぬとお霜が
櫛へ
蒔絵した日をもう千秋楽と俊雄は幕を切り元木の冬吉へ再び焼けついた腐れ縁燃え盛る噂に雪江お霜は顔見合わせ
鼠繻珍の煙草入れを奥歯で噛んで畳の上敷きへ
投りつけさては村様か目が足りなんだとそのあくる日の髪結いにまで当り散らし
欺されて
啼く
月夜烏まよわぬことと触れ廻りしより村様の村はむら気のむら、三十前から
綱では行かぬ恐ろしの腕と
戻橋の狂言以来かげの
仇名を
小百合と呼ばれあれと言えばうなずかぬ者のない
名代の
色悪変ると言うは世より心不めでたし不めでたし