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養生心得草

關寛




┌明治八年四月徳島新聞第七號の附録として┐

└世人に頒ちしものなり         ┘


第一 毎日まいにちき、寢衣ねまき着替きかへ、蒲團ふとんちりはらひ、寢間ねま其外そのほか居間ゐま掃除さうじし、身體しんたい十分じふぶん安靜しづかにして、朝飯あさはんしよくすること

第二 毎日まいにち食餌しよくじ三度さんどかぎり、分量ぶんりやうさだし。夜中やちゆう飮食いんしよくせざるをもつともよしとす。たゞし食後しよくご少時間しばらく休息きうそく運動うんどうはじむべきこと

第三 さけちや菓子かしるゐ食時しよくじせつ少々せう/\もちゐて飮食いんしよく消化せうくわたすくるはがいなしといへども、その時限じげんほか退屈たいくつときもちゆとうがいあること

第四 長日ちやうじつあひだは、午後一時ごゞいちじころ半時計はんじばかり晝眠ひるねやしなひたすけとなることあれども、其他そのたけつして日中につちゆう睡臥すゐぐわきんこと

第五 坐時すわりてをる起時たちてをる平均みならして、七歩しちぶ三歩さんぶすわくらゐにして、すわるにのみすごからざること

第六 毎日まいにち一度いちど冷水ひやみづあるひ微温湯ぬるゆにて身體からだ清潔きれいぬぐひとり、肌着はだぎ着替きかへべし。入浴ふろは六七日目にちめごとなるたけあつからざるるべきこと

第七 一ヶげつ五六かなら村里むらざとはなれたる山林さんりんあるひ海濱はまべで、四五みち歩行ほかうすべきこと

第八 衣服いふく精粗美惡よしあしひと分限ぶんげんるといへども、肌着はだぎ木綿もめんフラン子ルをよしとす。蒲團ふとん中心なかわたあたらしくかはきたるものをたつとゆゑに、綿花わたかぎらずかま穗苗藁ほわら其外そのほかやわらかかはきたるものをえらぶべし。すべ肌着はだぎ日々ひゞあらひ、夜着よぎは六七にちごとすべきこと

第九 食物しよくもつ衣服いふくごと分限ぶんげんによるは勿論もちろんなれど、肉食にくしよくあざらけくあたらしきしな野菜やさいわかやわらかなるしなえらぶべし。よく烹熟にたきして、五穀ごこくまじくらふをよしとすること

第十 常居ゐま濕氣しめりけすくな日當ひあたりよくしてかぜとほやうこゝろもちし。一ヶねん一兩度いちりやうどかなら天井てんじやうまたえんしたちりはらひ、寢所ねどころたかかわきたるはうえらぶべきこと

 一養生やうじやう二には運動うんどうくすりそろうてやまひなをるものなり

 養生やうじやう仕方しかたひとよるなれどこゝろとむるはたれかはらず

 ひとみな天壽てんじゆつる手入ていどきくさみだにせぬうちの養生やうじやう

養生やうじやう榮燿えいやうやうおもふは世上せじやう一般いつぱん習慣ならはしなり。いまへる養生法やうじやうはふは、いかなる貧人ひんじん、いかなる賤業せんげふひとにても、日夜にちやこゝろそゝげば出來できことなり。よつその大意たいい三首さんしゆ蜂腰ほうえうつゞることしかり。


   明治めいじねんぐわつ

關寛せきくわんしるす。






底本:「命の洗濯」警醒社


   1912(明治45)年3月23日発行

初出:「徳島新聞 第7号付録」

   1875(明治8)年4月

※複数行にかかる丸括弧には、けい線素片をあてました。

※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※近代デジタルライブラリー(http://kindai.ndl.go.jp/)で公開されている当該書籍画像に基づいて、作業しました。

入力:田中敬三

校正:小林繁雄

2007年7月15日作成

青空文庫作成ファイル:

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