たけのこは はじめ じびたの したに いて、あっち こっちへ くぐって いく もので あります。
そして、あめが ふった あとなどに ぽこぽこと つちから あたまを だすので あります。
さて、この おはなしは、まだ その たけのこが じびたの なかに いた ときの ことです。
たけのこたちは とおくへ いきたがって しようが ないので、おかあさんの たけが、
「そんなに とおくへ いっちゃ いけないよ、やぶの そとに でると うまの あしに ふまれるから」
と しかって おりました。
しかし、いくら しかられても、ひとつの たけのこは どんどん とおくへ もぐって いくので ありました。
「おまえは なぜ おかあさんの いう ことを きかないの」
と おかあさんの たけが ききました。
「あっちの ほうで うつくしい やさしい こえが わたしを よぶからです」
と その たけのこは こたえました。
「わたしたちには なんにも きこえやしない」
と ほかの たけのこたちは いいました。
「けれど、わたしには きこえます。それは もう なんとも いわれぬ よい こえです」
と その たけのこは いいました。
そして どんどん はなれて いきました。
とうとう この たけのこは ほかの たけのこたちと わかれて、かきねの そとに あたまを だして しまいました。
すると そこへ よこぶえを もった ひとが ちかよって きて、
「おや、おまえは まいごの たけのこだね」
と いいました。
「いえいえ、わたしは、あなたの ふいて いらっしゃった、その ふえの こえが あんまり よかったので、こっちへ さそわれて きました」
と たけのこは こたえました。
さて、この たけのこは おおきく かたく なった とき、りっぱな よこぶえと なりました。