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人間の悲哀

石川啄木




 人間の悲哀とは、自己の範圍を知ることである。生れ落ちた時、私は何も知らなかつた。その時何の悲しみがあつたらう。經驗と教育とは日一日と私の、自己及自己以外の事物に關する知識を廣くし、深くした。||私は日一日と、自己の範圍といふものを一劃々々知つてゆく樣になつた。

 何の自由、何の領土が人間にある? 自己の範圍といふものは、知れば知る程小さくなつてゆく、動きのとれぬものになつてゆく。

 常に何らかの努力をせねばならぬ人間の運命を、私はしみ/″\と痛ましく思ふ。






底本:「啄木全集 第十卷」岩波書店

   1961(昭和36)年8月10日新装第1刷発行

入力:蒋龍

校正:阿部哲也

2012年4月15日作成

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