遠くの低い山脈は無表情な空の下に連ってゐた。しかしその山脈を銀のナイフで切れば血が噴き出すかも知れない||何だかさう云ふ気持も少しした。鈍い太陽が冬枯れの練兵場の上にあった。眺めはまるで人生のやうに退屈であった。今日は正月二日なので兵士の影もない。そのかはり山裾の道に添って、三人の青年がとぼとぼと歩いてゐた。彼等はさっきから
この不思議な沈黙は何に責任があるのかしら、と青白い男は唇の隅へ煙草を銜へてぼんやりと考へてゐた。彼は大学を二度無意味に落第して、惰性でもう一度落第するかも知れなかった。濃い眉をした男の頬は少し赤かった。彼は肺を病んでぶらぶら散歩して暮すのだった。肩の怒って瘠せた男は画をやるのだが、絵具も持ってゐなかった。彼等は今日も
しかし、それが凡てであらうか。仮りにもし一人が何か素晴しいことを云へば、他の二人も即座に歓声をあげて寛ぐかも知れないのだ、誰もそれを知ってゐながら奇妙に素晴しいと云ふことがなかった。だから黙った。
山裾を廻って坂になるところまで来た時、眉の濃い男が、「帰らうか。」と云った。他の二人が黙々と同意した。そして三人は街に引返した。そして別れた。
青白い男は家に帰ると、急ににやにや笑ひ出した。妹がその容子を見てけげんがると、一そう得意になって笑ひ出した。