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充實した文章

田山録弥




 私は思ふ、調子の惡い文章は書いても、無駄の多い文章は書き度くない、と。調子といふものを庇ふと、兎角無意味な文字を使ひたくなる。無意味の文字を使ふと、何うも感じが空疎になつて困る。ゴンクールは勉めて文法を排し、アカデミイ派の文章の整一を蛇蝎のごとく憎んださうだが、私も何うか名文は書きたくない、充實した文章を書きたいと心懸けて居る。それと言ふのも、自分の文章がよく調子に捉へられたり、型にはまつて了つたりするのを豫ねて知つてゐるからであらう。






底本:「定本 花袋全集 第十五巻」臨川書店

   1994(平成6)年6月10日復刻版発行

底本の親本:「定本 花袋全集 第十五巻」内外書籍

   1937(昭和12)年1月18日初版発行

入力:特定非営利活動法人はるかぜ

校正:きゅうり

2020年4月28日作成

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