いかなる事象をも
||口に言ふに忍びざるほどの悲慘、殘忍、冷酷のことをも、明かに其心に映し得るやうに、作者は常に眞率な無邪氣な心を持つて居なければならぬ。『耽溺』の事象を、泡鳴君があのやうに明かに自己の心に映し得たのは、まことに敬服に値ひする。又泡鳴君は、讀賣の日曜附録で『耽溺』の主人公は古來の英雄豪傑と同じである。それが解らぬやうでは新文藝を談ずる資格がないといふやうな意味を言はれたが、これも面白い言葉であると思ふ。道徳に支配されず、習俗に動かされず、人間としての本性を縱横に發揮することの出來る態度
||其處に英雄豪傑の眞面目がある。