秋は深くなつた。落葉ががら/\と家の周囲を廻つて通る。朝から障子に日が当つて、雀がチヤ/\と鳴いて居る。芭蕉の葉は既に
栗の実を拾ひに、競つて朝早く子供等の起きたのはつい此間であつたが、今は落葉が深く積つて、それを掃く音が高く聞える。朝
私の家は林の蔭にある。
風の日には、樹の鳴る音が波のやうに聞える。ことに大きい
その欅の木の
それから三年はもう過ぎた。
周囲は非常に変つた。もう畑など見られぬほどの屋敷町になつて了つた。到る処の新しい家の庭を彩つてコスモスが咲いて居る。夜は、
庭では、植木屋が昨日の野分に吹倒された垣を修繕して居る。
『さうですな、建仁寺
『銀杏は美しいものですねえ』とある日私が言ふと、
『そら、
かうお
『あなたもさう思つて居たんですか······あれが実際綺麗なんですよ。夕方、帰つて来て、そら、彼処の橋のある処があるでせう。あの上の処から此方がよく見えるが、彼処から見ると、櫟や栗や庭樹などの暗く暮れかゝつた中にあれが一本はつきりと鮮かに出て居るんですよ。実に何とも言はれない、秋は今其一本にその名残の色を留めてゐるといふやうな気がしたですよ』
その銀杏も昨日見た時には、葉はもう残り少くなつて、空しい枝が蒼く澄んだ空にさびしさうに見えて居た。秋はもう暮れ近い。
凩が凄じく立つた。
硝子戸がガタ/\鳴る。新しく張り更へた障子の中の室は常よりも明るく、床には茶の花が生けてある。
此頃、野に出ると、空の色、森の落葉、青々とした大根畑、心を惹くやうな景色が到る処にある。と、かう思ひながら、私は毎日電車の停留場の方に出て行つた。停留場に居る人は大抵知つた顔が多かつた。垣の角でよく
電車が停留場を出て、速力を早めたと思ふ頃、丁度代々木野が一面に見渡される。丘から丘に連つた新建の家屋の上に富士が白く見える。