これも、
矢張メリケン幽霊だ。
合衆国の
桑港から、国の中央を横切っている、かの横断鉄道には、その時、
随分不思議な
談もあったが、
何分ロッキー
山の山奥を通過する際などは、その
辺何百里というもの、全く人里離れた場所などもあるので、
現今でもあまり、いい気持のしないのである。この鉄道が、まだ出来た当時などは、その不完全な工事の
為めに、高い崖の上に
通っている線路が
脱れたり、深い
谿谷の間に
懸っている鉄橋が落ちたりして、
為めに、多くの人々が、
不慮の災難に、
非命の死を
遂げた事が、
往々にあったのだが、その頃に、
其処を
後から汽車で
通過すると、そんな山の中で、人家の無い所に、わいわいいって沢山の人々が
集っているのが、見えるのだ。機関手は再三再四汽笛を鳴らして、それに注意を与えるが、彼等は
一向平気で、少しもそこから去らないから、仕方なしにまた汽車を動かして、
其処を通って
行くと、
最早彼等の姿は、決して人の眼に映らないが、
何処からともなく、嫌な声で、多くの人々の、悲鳴するような
叫喚が、山に反響して
雑然と
如何にも物凄く
聞えてくるので、乗客は恐ろしさに
堪えず、皆その窓を
閉切って、震えながらに通ったとの事である。その当時は、よくこんな出来事があったものだと、私は
或米国人から聞いたのである。