少年の時郡へいったが、ちょうど立春の節であった。昔からの習慣によるとその立春の前日には、同種類の商買をしている者が
私も友人についてそれを見物していた。その日は外へ出て遊んでいる人が人垣を作っていた。堂の上には四人の官人に
その時一人の男が髪を垂らした子供を
「お前は何が得意か。」
と訊いた。彼の男は、
「何もない所から物を取ってくることができます。」
といった。下役人はそこで官人に申しあげた。と、しばらくして
「桃を取ってまいれ。」
彼の男は承知して、
「お役人様は、物がわからない。こんな氷の張っている時に、どこに桃があるだろう。しかし、また取らなければ怒りに触れる。さて、どうしたらいいかなァ。」
すると彼の伴れている子供がいった。
「お父さんは、もう承知したじゃないか。今更できないとはいわれないだろう。」
彼の男は困ってなげくような所作をしていて、やや暫くしていった。
「よし、思いついた。この春の雪の積んでいる時に、人間世界にどこに桃がある。ただ
そこで子供がいった。
「天へ
彼の男がいった。
「それは俺に術があるよ。」
そこで
「来な。俺は年寄で、体が重いからいけない。お前がいって来な。」
とうとう縄を子供に持たして、
「これから登っていきな。」
といった。子供は縄を持って困ったような所作をして、そして父親を怨むようにいった。
「お父さんは、あまり物がわからないや。こんな一本の縄でどうして天へ登れる。もし道中で切れでもしたら、骨も肉もみじんになるのだよ。」
彼の男は無理に昇らそうとしていった。
「俺がつい口をすべらして、引きうけたから、もう後悔してもおッつかない。いってくれ。もし、桃を窃んで来たなら、きっと百円、金を出して、それで
子供はそこで縄を登っていった。それはちょうど
暫くして空から一つの桃が

「あぶない。天に人がいて、縄を
暫くして空から物が
「これは、きっと、桃を
また暫くして一つの足が落ちて来たが、それにつづいて手も胴も体もばらばらと堕ちて来た。
彼の男は非常に悲しんで、一いちそれを拾って笥の中へ入れて蓋をして、そしていった。
「私はただこの子供しかありません。この子供は毎日私について来て手助けをしてくれておりましたが、とうとうこんなことになりました。これからいって

そこで官人の前に
「桃のために子供を殺しました。もし、私を憐れんでくださるなら、葬式を助けてください。どうにかしてこの御恩は返します。」
傍に坐っていた者は同情して、それぞれ金を出してくれた。彼の男はそれを腰につけてから、
「八八、出てお礼をいわないかい。何をぐずぐずしているのだ。」
忽ち髪をもしゃもしゃにした子供の首が