ある冬の日のことだった。
二人はどうにもならないので、河原の船頭小屋へ入った。船頭小屋には火もなく、二畳ほどの板敷があるばかりであった。
二人はその板敷の上へ
そのうち巳之吉は、寒いので目をさました。小屋の戸が開け放しになっていて雪がさかんに舞いこんでいた。
「茂作さんが外へ出たのか」
巳之吉は茂作の方を見た。其処には真白い
巳之吉は

「この事を
女はそのまま巳之吉を放れて
巳之吉ははね起きた。そして、戸をぴしゃりと閉めて、背でそれを押えながら茂作の方を見た。
「も、も、茂作さん」
茂作は返事をしなかった。巳之吉はおそるおそる茂作の傍へ往って、茂作を揺り起そうとしたが、茂作は氷のように冷く硬ばっていた。巳之吉はその場に倒れてしまった。
巳之吉はそれから永い間床についていたが、やっと体の具合がよくなったので、一人でまた森へ通うようになった。そして、
そのうちに一年ばかり
渡船をあがった巳之吉は、その娘と後になり
「お前さんは、
娘は
巳之吉は女のたよりない身の上を聞くと気のどくになった。そこで自分の家の前まで来ると、
「今晩はわっしの家へ泊って、明日ゆっくり往きなすったら」
娘はすぐ巳之吉の
お雪が家にいるようになってから巳之吉はしごく元気になった。
やがて、巳之吉とお雪は夫婦になった。お雪は母親をひどく大事にした。
「ほんとに良い嫁が来てくれた、おまえたちは、いつまでも仲よく暮しておくれよ」
お雪は次つぎに十人の子供を産んだ。子供たちはみんな色が白くて、木樵の子のようでなかった。そのうえ、お雪は十人も子供を産んだにもかかわらず、
「お雪さんは、わしらとは違ってる、あれは人間じゃないよ」
村の女たちは陰口を利きあった。
幸福な月日がまた何年か経って、木枯の吹く冬が来た。ある夜お雪は、いつものように子供たちを寝かせた後で、針仕事をはじめた。
「おい、お雪、お前がそうしているところは、昔、おれが会った女にそっくりだぜ。お前も白いが、その女の顔は、とっても白かったぜ」
「話しておくれよ、その女の事を」
「それがさ、ほんとに
巳之吉は大吹雪のこと、船頭小屋へ泊ったこと、茂作の奇怪な最期などを
「その女の顔の白さったら、なかったぜ。あんまり不思議なことだから、夢じゃなかったかと考えて見るがな、何にせい、ああして茂作どんが取り殺されたところを見ると、やっぱりあれが雪女ってものだろう、なあ」
お雪はいきなり手にしていた縫物を投げすてるなり、つかつかと巳之吉の前へ来て
「そりゃわたしだよ。あの時、あんなに約束してあるのに、お前さん、よくも約束を破ったね。だが、もうお前さんをどうもしないよ、そのかわり子供を可愛がっておくれ、いいかい。もしわたしの子だからって、ひどい目に会わしたら、その時こそ、判ったねお前さん」
声の終りの方が風のようにかすれた。かと思うと、お雪の身体はぽうと白い霞のようになって、そのまま天窓から出て往った。