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箕輪の心中

岡本綺堂




藤枝外記ふぢえだげき

外記の妹お縫

吉田五郎三郎

用人堀部三左衞門

中間角助かくすけ

菩提寺の僧

百姓十吉

十吉の母お時

村のむすめお米

大菱屋綾衣おほびしやあやぎぬ

新造綾鶴しんざうあやづる

若い者喜介

ほかに花見の男女 茶屋娘 眼かづら賣

小坊主 若侍 水屋 燈籠屋 新内語しんないかたり

くるわの者 盆唄の娘子供など

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向島むかうじま木母寺もくぼじ。平舞臺の下手へよせて、藁ぶき屋根の茶店あり。軒にあづま屋といふ行燈あんどうをかけ、門口に木振よき柳の立木あり。よきところに床几二脚ほどならべてあり。所々しよ/\に櫻の立木、花盛りの體なり。正面には木母寺の境内を見る。


(熊藏、半次、職人のこしらへにて、眼かづらをかけて、酒樽を持ち、ほかに娘三人、おなじく花見のこしらへにて、いづれも茶店の床几に腰をかけてゐる。外にも花見の男女大ぜい、思ひ/\のこしらへにて立ちかかりゐる。天明てんめい五年三月十五日、梅若うめわかの供養にて双盤念佛さうばんねんぶつの音きこゆ。)

熊藏  おい、おい。ねえさん。茶でも湯でも早くたのむぜ。醉醒ゑひざめのせゐか、喉が渇いてならねえ。

半次  ほんたうにこゝらは田舍だぜ。花時にやあちつと氣の利いたのを置けばいゝのに······。おい、おい、姐さん。大急ぎだよ。

茶屋女 はい。はい。

(茶店の中より茶屋女二人は赤い襷をかけ、土瓶、茶碗、さくら餅など盆にのせて持ち出づ。)

女甲  どうもこみ合つて居りますもんですから、つい/\遲くなりました。

女乙  まあ、ゆつくりとお休みなすつて下さいまし。

熊藏  あんまりゆつくりしてゐると、日が暮れてしまはあ。なあ、半次。

半次  ひと休みしたら、早く梅若へおまゐりをして來よう。

(みな/\捨臺詞すてぜりふにて茶を飮む。奧にて双盤の音きこゆ。花見の男女は奧を見る。)

男 それ、お念佛がはじまるぜ。

女 早く行きませうよ。

(男女大ぜいはわや/\云ひながら境内に入る。)

娘一  もうお念佛が始まると云ふから、わたし達も早く行かうぢやありませんか。

熊藏  ちげえねえ。どれ、出かけべえか。おい、姐さん。お茶代はこゝへ置くよ。

女甲  毎度ありがたうございます。

(熊藏と半次は立たんとしてよろ/\する。)

娘一  あれ、あぶない。

娘二  お前さん達は醉つてゐるから氣をつけないと、池へおつこちるよ。

半次  おつこちる時にやあお前を抱いて一緒に心中だ。あはゝゝゝゝゝ。

熊藏  こんなものは邪魔でいけねえ。おい、誰か持つてくんねえか。(樽を出す。)

娘三  だつて、こりやあもうからぢやあないか。

熊藏  空でもなんでも、これをさげてゐなくつちやお花見らしくねえや。ついでにこんなものも其方そつちへ渡さう。

(熊藏は眼かづらを取る。娘三はうけ取りて眼かづらをかけ、空樽あきだるをさげる。)

半次  おれもこんなものは鬱陶しくていけねえ。(眼かづらを取る。)兜もしころつちもいらねえ。みんなそつちへお渡し申すぜ。

(半次も眼かづらと樽を出す。娘一は眼かづらをかけ、娘二は樽を持つ。)

娘一  ねえさん。おやかましうございました。

女甲  どういたしまして、一向おかまひ申しません。

熊藏  さあ、行くべえ、行くべえ。

(熊藏を先に、みな騷ぎながら境内に入る。)

女甲  けふは梅若の御供養で朝からお客が絶えないので、息をつく間もありやあしない。

女乙  ほんたうに今日はがつかりしてしまつた。

女甲  お花見もこの五六日のところが書き入れだから、忙がしいのも仕方があるまいよ。

(二人は茶碗など片附けてゐる。下手の奧より藤枝ふぢえだの妹お縫、十八歳、旗本の娘のこしらへにて、中間角助かくすけをつれて出づ。)

角助  お孃樣、これで鳥渡ちよつとお休みなされては如何いかゞでございます。

(お縫はうなづきて床几にかゝる。)

女甲  入らつしやいまし。(茶を汲んで出す。)

お縫  角助。けふは大層な賑ひであるなう。

角助  御覽の通り、向島も今が花盛りでございますから、江戸中の者がみんな出かけてまゐります。

お縫  ほんに今は花の盛り、いつもながら見事な眺めではないか。

(女甲は角助にも茶を出す。)

角助  姐さん、後生だ。おれには櫻湯をくんねえ。

女甲  はい、はい。

(女は店に入る。お縫はあたりを眺めてゐる。境内よりお時、四十七八歳、農家の女房の拵へにて、うろ/\しながら出で來り、お縫と顏を見あはせる。)

お時  おゝ、お孃樣ではござりませぬか。

お縫  おゝ、乳母か。

角助  お乳母さん、珍らしいところで出つくはしたね。

お縫  まあ、そこへかけたがよからう。

お時  はい、ありがたうござります。

(お時は床几にかゝりて一禮する。)

お時  此頃はまことに御無沙汰をいたして居ります。して、今日こんにちはお花見でござりますか。

お縫  花見といふではないけれど、小梅の御菩提所へまゐつたついでに、梅若の御供養を拜みに來ました。

お時  實はわたくしも梅若さまへ御參詣に來たのでござりますが、境内の混雜で忰のすがたを見うしなひ、そこらを探して居るうちに、丁度よいところでお目にかゝりました。

お縫  なに、混雜のなかで忰を見失うたと······。それは心配なことであらう。

お時  いえ、あれも子供では無し、どうやら斯うやら一人前の若い者、別に心配するほどのこともござりませぬ。

角助  おまへの方では心配しなくつても、息子さんの方で、却ておまへを案じてゐるかも知れねえ。わつしが行つて一遍さがして來ようか。

お時  いえ、いえ、決してそれには及びませぬ。やがてあとからまゐりませう。

お縫  でも、ゆき違ひになつてはならぬ。角助、境内を一度探して來や。

角助  かしこまりました。

お時  それは御苦勞でござりますな。

角助  では、しばらくお待ちくださりませ。

(角助はお縫に會釋して境内に走り入る。茶店の女は茶碗を持ちて出づ。)

女甲  おや、御家來さんは······

お時  御家來さんは今ちよいとあれへまゐりました。そのお湯はわたくしが頂きませう。

(お時は茶碗をうけ取る。女は店に入る。)

お縫  かけ違つて暫らく逢はなんだが、乳母はいつも達者たつしやでめでたいなう。

お時  おかげ樣でこの通り丈夫でござります。して、殿樣はお勤め向きの御首尾もよく、御繁昌でいらせられますか。

お縫  お前はまだ知るまいが······にいさまも此頃は、別にお勤めと云うては······

お時  え、お勤めはござりませぬか。

お縫  (愁はしげに。)實は去年の暮に、小普請入こぶしんいりを仰せつけられました。乳母、察してくりやれ。

お時  (おどろく。)それは、まあ······。なるほどこのお正月、お屋敷へ御年始に出ました時、いつもの春のやうでは無く、なんだか陰氣でひつそりしてゐると存じましたが、さう云ふわけでござりましたか。

お縫  春早々から惡い耳を聞かせたくないと、なんにも云はずに隱してゐましたが、さういふ仕儀でお勤めにも出られず、たゞ引籠つてばかり居られます。

お時  おふくろ樣にお乳がないので、わたくしがお屋敷へ御奉公、殿樣が七つにおなり遊ばすまでお乳をあげて居りましたが、小さいときから御發明のお生れつきで、武藝學問なに暗からず、立派に御成人あそばして、ゆく/\は定めて御出世と、わたくしも蔭ながら喜んでをりましたに、お役御免の小普請入りとは、一體どうしたわけでござります。

お縫  さあ、その譯は······。ひとに話せば笑ひ草、乳母ならば共に泣いてもくれよう。兄樣は武士にあるまじき廓通ひ、身持放埓のかどによつてお上の首尾をそこねた次第。

お時  え、殿さまが廓通ひに······。それは今までちつとも存じませんでした。して、そのお通ひなさる女といふのは······

お縫  大菱屋おほびしや綾衣あやぎぬとかいふ女子をなご······一昨年をととしからの深い馴染なじみとやら。

お時  それはまあ飛んでもない。それにしても、おまへ樣をはじめ御親類の方々が、なぜ御意見をなされませぬ。

お縫  幾たび御意見申しても、針ほどの效目きゝめもあらばこそ、ます/\不しだらが募るばかりで、今は親類も呆れてゐるくらゐ······

(お縫はいよ/\打凋るれば、お時も共に愁ひ顏。)

お時  それはさぞ御心配でござりませう。あれほど立派な殿樣に、どうしてそんな魔がさしたのやら······。情ないことでござりますな。

(二人は顏を見あはせて嘆息す。この時境内のかたさわがしく、以前の熊藏と半次はお時のせがれ十吉を引立ひつたて出づ。十吉は十八九歳、農家の若者。あとよりお米、十六七歳、村の娘にて、うろ/\しながら出づ。つゞいて以前の娘三人も出づ。)

熊藏  やい、この野郎。なんで俺達に突き當りやあがつたのだ。

半次  うぬ巾着切りだらう。料簡がならねえぞ。

(ふたりは十吉を小突く。)

十吉  (おど/\する。)今この境内でつれにはぐれ、うろ/\探してゐるうちに、向うにばかり氣をとられて、つい粗相をしましたが、どうぞ勘辨してくださいまし。

熊藏  いやだ、忌だ。つい粗相で濟むと思ふか。

半次  賣る喧嘩ならいつでも買つてやるから、相手になれ。

(お時はこれを見て、割つて入る。)

お時  あゝ、もし、これはわたくしの忰、どんな粗相を致したかは知りませぬが、わたくしが代つてお詫をいたします。どうぞ勘辨して遣つてくださりませ。

お米  わたしも共々におわび申します。

熊藏  えゝ、ばゞあや阿魔つちよが口を利いたつて勘辨できるものか。引込んでゐろ。

半次  さあ、野郎。どこまでもうぬが相手だ。

(二人は立ちかゝるを、連れの娘等は止める。お米と十吉は途方にくれてゐる。)

お縫  (起ち上る。)あゝ、これ、待ちや。

熊藏  え。(お縫の顏を見て。)や、藤枝樣のお孃樣でございましたか。

半次  この通り醉つて居りますので、とんだ失禮をいたしました。

お縫  それはわたしが知り合の者、粗相はゆるしてやつてはくれまいか。

(熊藏と半次は顏をみあはせる。)

熊藏  へえ、お孃樣のお扱ひなら、わたくし共にも決していなやはございません。

お縫  では、料簡してくれるのかえ。

半次  よろしうございますとも······。なあ、熊。

熊藏  別に意趣も遺恨もあるわけぢやあなし、好んで喧嘩をするでもねえ。では、お孃樣。

半次  これで御免くださいまし。

(熊藏、半次は早々に去る。連の娘三人もつゞいて去る。)

お縫  十吉、どこも怪我はなかつたかえ。

十吉  丁度よいところへお孃樣がおいで下すつたので、何事もなく濟みました。ありがたうござります。

お縫  あの二人は屋敷へ出入りの職人、ふだんはおとなしい正直者だが、花見の酒に醉うたのであらう。

お時  それでも生醉ひ本性たがはずとやらで、お孃さまのお顏を見ましたら急におとなしくなつて歸りました。

(角助、境内より出づ。)

角助  十吉さん、そこにゐたか。實は今、境内をひとまはり探して來たのだ。

十吉  いろ/\御心配をかけて相濟みませんでした。

角助  なに、お禮にやあ及ばねえ。時にお孃樣、なんだかお天氣がをかしくなつて參りましたから、そろ/\お歸りになつては如何いかゞでございます。

お縫  番町までは路も遠い、降らぬうちに戻りませう。乳母も十吉もひまを見て、屋敷の方へたづねて來や。

お時  はい。近いうちに必ずお屋敷へうかゞひます。唯今のお話をうけたまはりましては、わたくしも心配で心配でなりませぬ。

お縫  あ、これ、くはしいことは又その節······

(お縫は眼で知らせるに、お時はうなづく。お米は空を仰ぎ見る。)

お米  おゝ、もうぼつ/\降つて來ました。

十吉  大したこともあるまいが、これが梅若の涙雨だ。

お縫  涙の雨はいづこにも······。(空をみる。)

(この時、雨ます/\降り出づるに、みな/\忙がはしく茶店の軒下に入る。)



木母寺附近、料理茶屋の入口。舞臺の上手少しくあとへ下げて、風雅なる屋根附の門にむさし屋と記せる行燈をかけたり。左右は青竹の垣を折りまはし、門内に櫻の立木あり。垣の外、すこしく下手へ寄りて欅の大樹あり。


(以前の娘三人は手拭をかぶり、すそを端折りて、料理茶屋の軒下に立つ。小坊主安念は法衣ころも、朴齒の下駄。眼鬘賣めかづらうり六助はかづらを掛けたる棒を持ち、いづれも欅の木の下に雨宿りをしてゐる。花見の人々れながら走り出で、上下かみしもへ入る。みな/\空を見る。)

娘一  熊さんや半ちやんはどこまで行つたんだらうねえ。

娘二  ぢきそこまで傘を借りに行くと云つたが、まさか置去りした譯でもあるまい。

娘三  あの人達のことだから何とも云へないよ。

六助  梅若の涙雨が、たうとう本降りになつて來やあがつた。おい、お小僧さん、お前はどこのお寺だえ。

安念  お寺は駒込吉祥寺こまごめきちじやうじでござる。

六助  えゝ、惡く洒落れるぜ。木母寺か長命寺か。

安念  木母寺でござる。

六助  それぢやあ今日の念佛踊りにかねかん/\叩いた方だね。何しろ斯う降られちやあ此方こつちの商賣は型なしだ。どうだい、お小僧さん。お前にやあ日和ひよりの御祈祷はできねえかね。

安念  御祈祷料次第で、隨分祈つて進ぜるが······

六助  慾張つたことを云ひなさんな。今時の坊主は油斷がならねえ。

娘一  雨はだん/\強くなるばかりで、なか/\止みさうもないねえ。

娘二  いつそもうれて歸らうか。

娘三  それでももう少し待つて見ようよ。

(上手より以前の熊藏は番傘をさして出づ。)

熊藏  やう/\のことで傘を一本工面して來たが、半次の奴はまだ見えねえかね。

娘一  さつきから待つてゐるんだけれども、どこへ行つたか判らないんだよ。

熊藏  仕樣がねえなあ。だが、いつまでこゝに待つてもゐられめえ。あの野郎は置去りにして出掛けようぜ。おめえたち三人はこれをさして行きねえ。

六助  はゝ、三人の相傘はめづらしい。

熊藏  それでも丸つきり無えよりはしだらう。

娘二  さうして、お前さんは······

熊藏  おれはずぶれ、どうせ自棄やけだ。

六助  女の子にやあ深切だね。

熊藏  これでなけりやあ情婦いろは出來ねえ。さあ、出かけた、出かけた。

(むすめ三人は捨臺詞にて一つの傘に入り、熊藏は手拭をかぶりて先に立ち、みな/\急ぎ去る。)

六助  こりやあいつまでも止みさうもねえ。(棒にかけたる眼かづらを外して懷中ふところへおし込む。)仕方がねえ、濕れろ、濕れろ。お日和ひより、お日和。

(六助も雨のなかを走り去る。)

安念  だん/\に人が行つてしまふので、なんだか寂しうなつた。どれ、わしも濕れて行かうか。

(安念はあたりを見まはしてゐる。奧の料理茶屋にて唄ふこゝろにて、端唄模樣はうたもやうの獨吟になる。)

※(歌記号、1-3-28)あづまに、あはれを殘す梅若の、雨をなみだとが云ひし、戀のあはれは虎が雨。

安念  こゝの茶屋でも何か面白さうに唄うてゐるな。浮世の凡夫が花に浮かれて、はゝ、馬鹿なことぢや。色即是空しきそくぜくう······南無阿彌陀佛。なむ阿彌陀佛。

(安念も去る。時の鐘、薄く雨の音きこゆ。)

※(歌記号、1-3-28)ふりし昔の大磯も、江戸の廓のよし原も、ながれは同じ隅田川、ちり浮く花を友として、つがひ離れぬ都鳥。

(門の内より藤枝外記、廿五歳の武士。大菱屋綾衣、廿一二歳の遊女。むさしやと記せる貸傘を相傘にして出づ。あとより新造綾鶴しんざうあやづる出づ。)

綾鶴  いゝ鹽梅あんばいに雨も小降りになつたやうでござんすな。

外記  花時の天氣癖だ。やがて晴れるであらう。

綾衣  今鳴つたのは七つでござんせうな。

外記  廓の門限は七つ半。今から歸つたら遲くもあるまい。迎ひの駕籠はまだ見えぬか。

綾衣  左もない病氣を云ひたてに、お醫者へ行くとこしらへて、廓を出たのは今日のひるごろ。こゝでぬしと落ち合うて、花をみながら半日をほんに面白く暮したので、今さら廓へ歸るのは······

外記  いやだといふのか。慾をいへば限りがない。わしもあとから行くほどに······

綾衣  きつと來てくださんすか。

綾鶴  主にかぎつて嘘はござんすまい。話の殘りは今夜ゆつくり······

綾衣  必ずあとから來てくださんせ。

外記  むゝ。

※(歌記号、1-3-28)波のまに/\吹き分けられて、翼も寒き春のゆふ風。

駕籠夫かごや四人は駕籠二挺をかつぎて出づ。)

駕甲  へえ、お待遠さまでございました。

駕乙  もう一挺はすぐあとからまゐります。

外記  おゝ、よい、よい。三人連れ立つては人目もある。わしは一足おくれて行けば、お前達ふたりは先へ歸れ。

綾衣  では、待つてゐますぞえ。

綾鶴  だますと堪忍しませぬぞ。

(外記笑ひながら首肯うなづく。綾衣と綾鶴は駕籠に乘りてゆく。雨の音しめやかに、櫻の花はら/\と散りかゝる。外記は傘をさして見送る。綾衣は駕籠の垂簾たれをあげて、見返る。)

綾衣  六つ半までに屹度でござんすぞ。

(外記は矢はり笑ひながらうなづく。駕籠は遠く走り去る。)

外記  春雨に濕れてゆく女の駕籠に、花の吹雪の散りかゝるは、畫にあるやうな風情だなう。

(外記はうつとりしていつまでも見送る。しものかたより以前の十吉、跣足はだしにて番傘二本をかゝへ、お米と相傘にて走り出づ。)

十吉  殿樣ではござりませぬか。

外記  おゝ、十吉。どこへ行く。

十吉  おふくろと一緒に梅若へ參詣に來ましたら、丁度お孃樣にお目にかゝりました。

外記  なに、妹に逢つた······

十吉  はい。そのうちにこの俄雨で、堤下どてしたの親類まで傘を借りに行つてまゐりました。お孃樣は梅若の茶店で、雨宿りをしておいでなされます。

外記  こゝでわしに逢つたことを、妹に云ふなよ。

十吉  はい。

外記  誰にも云ふなよ。

(云ひすてゝ、外記は門内は入る。十吉は合點がてんのゆかぬ體にて、しばらくあとを見送る。お米もおづ/\門内をうかゞふ。茶屋の奧にて唄の聲きこゆ。)

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麹町番町かうぢまちばんちやう、藤枝外記(五百石の旗本)の屋敷。二重家體にぢうやたいにて、床の間に鎧櫃を飾り、つゞいて違ひ棚、襖。庭には飛石、石燈籠、立木。下のかたに枝折戸しをりどあり。


(七月十三日の午後。若侍二人、一人は花鋏を持ち、一人は如雨露じようろを持ちて、枝折戸のそばに立ち、四目垣よつめがきにからみたる朝顏に水をやつてゐる。)

侍甲  盆になつても、日中は隨分暑いな。

侍乙  併しこの朝顏ばかりは、日中に水をやらねばなるまい。

侍甲  蔓もおひ/\に伸びて來たから、花もやがて末だらうよ。

(中間角助は文を持ちて出づ。)

侍甲  おゝ、角助。貴樣は晝前から些とも影を見せなかつたが、今まで何處をうろついてゐたのだ。

侍乙  貴樣はこのごろ兎かく横着でよろしくないぞ。

角助  いえ、決して横着といふわけぢやあねえ。殿樣のお使で遠くまで行つて來たので······。(汗をふく。)いや、どうも暑いことだ。

(奧より用人堀部三左衞門、五十餘歳、出づ。)

三左  これ、角助。殿樣のお使でどちらへ參つた。

角助  へえ。(もじ/\してゐる。)

三左  この三左衞門に沙汰無しでまゐるとは······。(角助の顏を屹とみる。)さあ、お使の出さきをしかと申せ。隱すと其分には差置かぬぞ。

角助  へえ、實は其······

三左  一體、貴樣の手に持つてゐるのは何だ。

角助  え、これは······

(角助はあわてゝ文をふところに隱さうとする。三左衞門は若侍を見かへりて眼で知らすれば、甲乙二人は心得て立ちかゝり、無理に角助の文を奪ひて、三左衞門に渡す。)

三左  上書うはがきは女文字でさままゐる。むゝ。(うなづく。)これ、角助。わしがこれまでたび/\申聞かせて置いたのを忘れたか。たとひ殿樣の仰せでも、吉原などへお使にまゐること相成らぬと、堅く申渡してあるに、さりとは不屆至極の奴。貴樣のごとき者が當お屋敷に居つては、殿樣のお身持も直るまい。今日こんにちかぎり長のいとまをつかはすから、左樣心得ろ。

角助  え、お暇になるのでございますか。

三左  勿論のことだ。早く出て行け。

角助  こりやあ飛んでもねえことになつたな。(弱つてゐる。)

(奧より外記の妹お縫出づ。)

お縫  三左衞門、待ちや。角助には少し聞きたいことがある。(若侍等を見かへる。)お前達は部屋へ。

甲乙  はあ。(會釋して去る。)

三左  (にがり切つて。)孃樣。かやうな者におことばをおかけ遊ばすな。

お縫  でも、聞いて置きたいことがある。(角助にむかひ。)これ、近う來や。けふかぎり長の暇になつても、お前はなんとも思ひませぬか。

角助  なんとも思はぬどころぢやございません。實に大弱りでございます。以後は屹と愼みますから、今度のところだけは御勘辨を······。なにぶんお願ひ申します。

お縫  詫びるならば、勘辨してもあげようが、その代りにわたしが今たづねることを包み隱さずに云ひますか。

角助  へい、へい。もう斯うなれば一から十まで、なんでも根こそげ申上げます。

お縫  お兄樣あにいさまが三年越し馴染んでおいでなさる吉原の遊女、大菱屋の綾衣とかいふのはのやうな女子をなごかえ。

角助  わたくしも度々お供をして存じて居りますが、その綾衣といふ花魁おいらんは實に豪勢なものでございます。年のころは廿一二、容貌きりやうはよし、姿は好し、氣前はよし、なにしろ入山形いりやまがたに二つ星のなか町張ちやうばりで······。あなた方は御承知ございますまいが、一體仲の町張りと申しますと······

三左  えゝ、詰らぬことをべら/\饒舌しやべるな。おたづねのことだけを手みじかに申上げればよいのだ。

お縫  して、お兄樣はその綾衣のところへばかりお通ひなさるのか。

角助  へい。殿樣はその花魁一點張り、また女の方でも殿さま一點張り、ほかの客は振向いても見ないといふ逆上方のぼせかたで、廓内くるわうちでは大評判でございます。併しあのくらゐの女に首つたけ惚れられるといふのは男冥利で、殿樣もよくよく好い月日の下にお生れなすつたのでございませう。實にお羨ましいことで······

三左  たはけめ、云はして置けばさま/″\の囈語たはごとを申す。孃樣、もうおやめなされませ。

お縫  まあ、待ちや。それほど噂を立てられては、綾衣とやらも稼業はなるまいに、今も相變らず勤めてゐるのかえ。

角助  さあ、さういふわけでございますから、ほかの客は寄り附かず、自然女の方にも借金は殖える、殿さまの方にも御無理が出來るといふやうな理窟で、詰り詰つた擧句の果、實を申せば······(摺寄つて聲をひくめ。)花魁は先月の晦日みそかに店をかけ出して、箕輪みのわ御乳母おんばさんのところへ······

お縫  なに、綾衣は吉原をぬけ出して、箕輪の乳母のところに隱れてゐるとか。

三左  それはいよ/\以ての外。年來御恩をきて居りながら、かやうな時に御意見のひと言も申上げることか、却て駈落かけおちの女を隱まふなどとは、言語道斷、憎い奴。手前これより箕輪へまかり越して、乳母めをきびしく折檻し、一刻も早くその女を追ひ拂はねば、殿樣お爲に相成りませぬ。角助、案内いたせ。

(三左衞門は押取刀おつとりがたなにて起たんとするを、お縫は止める。)

お縫  はて、くには及ばぬ。さう事が判つたからは、いちの叔父樣とも御相談して、また分別の仕樣もあらう。

三左  なるほど。市ヶ谷の殿樣にもかねて御心配をねがつて居りますれば、一應御相談をいたした方がよろしいかも知れませぬ。では、角助。もうよいから、行け、行け。

角助  へい、へい。もう御用はございませんか。

お縫  部屋へさがつて休息したがよい。

角助  へい、へい。

(角助はほつとして立去る。あとに兩人は顏を見合せる。)

三左  孃樣。いよ/\事面倒に相成りましたな。

お縫  ほんに困つたもの。お兄樣がそれほどに御執心なら、また取計ひの仕樣もあらうけれど、なにをいふにも相手が勤めの女ではなう。

三左  左樣でござりますとも······。町人でも筋目正しい家では、吉原の女子などは門端かどばたも踏ませませぬ。まして天下の御旗本が、くらべにもならぬ御身分違ひ、とても、とても。(かしらをふる。)

お縫  さあ、あまり身分が違ふので、たとひわたし達は承知しても親類大勢が承知しまい。

三左  よし又、御親類が承知なされても、世間一統が承知しませぬ。第一にお家のけがれ、御先祖樣へ相濟みませぬ。

(お縫も思案にくれてゐる。奧より藤枝外記出づ。)

お縫  おゝ、お兄樣······

外記  角助はまだ戻らぬか。

お縫  え。(三左衞門の顏をみる。)

三左  角助は唯今戻りました。

外記  おゝ、戻つたか。定めて返事を持參したであらう。これへ出せ。これへ出せ。

三左  いえ、これは差上げられませぬ。

外記  なに、渡されぬ······

三左  かやうなものを御覽に入れては、お前さまお爲に相成りませぬ。

(三左衞門は先刻の文を取つてずた/\に引裂き捨つ。外記は赫となりしが、また思ひ返して冷笑あざわらふ。)

外記  さて/\そちは忠義者だ。文の通ひ路に關を据ゑても、こゝろと心との通ひ路は塞がれまい。貴樣達の小才覺こざいかくで、燃える火を消さうとするのは、あれ、あの庭の燒石に如雨露の水をそゝぐやうなものだ。止せ、よせ。時に三左衞門、すこしく金子きんす入用だが、知行所ちぎやうしよから取り立つる工夫はないか。

三左  いかに御自分の御知行所でも、定めのほかに無體の御用金などけしからぬ儀でござります。

外記  では、藏の中から不用の鎧かぶと太刀など持出して、賣拂つてはどうだな。

三左  鎧兜太刀などは武士の表道具、まして御先祖傳來の大切なる品々、おまへ樣の御自由には相成りませぬ。

(三左衞門頑として應ぜず。外記はいよ/\勃然むつとして、床にかざりし鎧櫃より一領の卯花縅うのはなをどしの鎧を取り出して來る。)

外記  これ、三左衞門。わしが今この鎧を持ち出して、勝手に賣拂つたらなんとする。

三左  いえ、唯今も申す通り、おまへ樣のお持物でも、お前樣御勝手には相成りませぬ。御先祖樣が慶長けいちやう元和げんな度々どゞの戰場に、敵の血をそゝいだるその鎧、申さばお身にもかへがたき寶、藤枝五百石のお家はその鎧と太刀の功名故でござりまするぞ。

お縫  今あらためて申さずとも、鎧刀は武士のたましひといふことを御存じないか。いかにお心が狂へばとて、重代の寶をむざ/\手放さうとは、あまりにお情なう存じます。

外記  慶長元和の血なまぐさい世の中と、太平百餘年の今日とは、世も違へば人の心もちがふぞ。鎧刀を武士の魂などと、自慢した時代はもう過ぎた。わしも以前は武藝に凝り固まつて、やれ劒術の柔術のと、油汗をながして苦んだものだが、今更おもへば馬鹿であつた。歴々の武士が竹刀の持樣も知らず、弓の引樣もしらず、武藝よりも遊藝に身をいれて、小唄や三味線の稽古に餘念もない。それでも立派にお役をつとめて、家繁昌する世のなかに、なんの用もない鎧刀、五月人形の飾り具足や菖蒲刀も同樣だ。家重代の寶でも、好い値に引取るものがあれば、なん時でも賣放すぞ。

(鎧を投げ出せば、二人はあきれて顏をみあはせる。)

三左  いかにも此頃の御旗本御家人が、武藝をすてゝ遊藝に耽り、次第に惰弱に流れまするは、なげかはしい儀でござりますが、ひとひと、われは我、さやうなやからにはおかまひなく、お前樣まへさまは飽までも御先祖以來の御家風によつて······

外記  えゝ、くどい。野暮を申すな。先祖の講釋も聞き飽きたぞ。

(顏をそむけて取合はぬに、兩人はたゞ嘆息のほか無し。奧より先刻の若侍一人出づ。)

侍甲  申上げます。

外記  なんだ。

侍甲  市ヶ谷の殿樣お越しにござります。

お縫  おゝ、叔父樣がお見えなされたか。

三左  すぐにこれへお通し申せ。

(二人は好いところへ叔父が來てくれたと喜ぶ。外記は顏をしかめる。)

外記  いや、叔父に逢ふも面倒······。外記今日こんにちは所勞でござるとお斷り申せ。

三左  いや、いや、餘人とは違うて市ヶ谷の殿樣、お逢ひなさらねば濟みますまい。

外記  えゝ、かまはぬ。逢へぬと云へ。

お縫  いえ、いえ、さうはなりますまい。

(たがひに爭ふうちに外記の叔父吉田五郎三郎、四十前後、おなじく旗本。袴、羽織にて奧より出づ。かくと見るより、お縫はあわてゝ鎧を片附ける。)

三左  これは、これは、お出迎へも致しませず······

五郎  いや、いや、始終出入りをする屋敷だ。案内も待たずに通つて來た。

お縫  叔父樣、ようおいでなされました。

五郎  きびしい殘暑だ。一同變ることもないか。

お縫  はい。

三左  これ、早うお茶の支度いたせ。

侍甲  はあ。(引返して去る。)

外記  その後はまことに御無沙汰をいたして居ります。

五郎  御用が忙がしければ自然無沙汰になる、それはお互ひのことだ。わしもこの間は御用繁多であつたが、幸ひ今日は非番。と申して、屋敷にたゞ孑然つくねんとして居つても退屈だから、久振りで一勝負しようかと、この暑いのに出かけてまゐつた。どうだ、外記。このごろは少し強くなつたかな。三左衞門、盤を持て。

三左  はあ。

(三左衞門は起つて、違ひ棚より碁盤を持出づ。外記は氣のすゝまぬ顏。)

外記  わたくしは此頃しばらく盤にむかひませぬので、とても叔父樣の御相手は出來ませぬ。どうか今日は御免を······

五郎  むゝ、見れば顏色もよくないやうだが、氣分でもすぐれぬか。

外記  別に病氣と申すでもござりませんが······

五郎  病氣でなくば一局まゐれ。却つて暑さを忘るゝものだ。(盤にむかひて石を取る。外記もよんどころなしに石を取る。)

五郎  お縫も三左衞門も圍碁は不得手であつたな。嫌ひなものを見物してゐるのも大儀、又こちらもそばに人が居つては氣が散つてならぬ。用があれば呼ぶほどに、遠慮なく次へ立て。

お縫  では、おことばにしたがひまして。

三左  暫時お次へさがります。

(お縫と三左衞門は會釋して奧に入る。)

五郎  さあ、ほかに人も居らぬ。ゆる/\と勝負せうか。

(二人は盤にむかひて石を打つ。)

五郎  これ、なにをうか/\致して居る。身にしみて打たねば面白くないぞ。

外記  はあ。

五郎  これは大分暑くなつてまゐつた。

(羽織をぬいで又打つ。外記もはじめは氣の乘らぬ體なりしが、しだいに釣込まれて打つ。)

外記  (やがてあわたゞしく。)や、叔父樣、それでは違ひます。

五郎  なにが違ふ······

外記  お前樣のこの石はもう死んで居ります。

五郎  馬鹿を申せ。なんでこれが死ぬものか。

外記  でも、これは······

五郎  えゝ、卑怯なことを申すな。

外記  負腹まけばらを立つおまへ樣こそ、近頃御卑怯でござりますぞ。(あざ笑ふ。)

五郎  やあ、卑怯とはなにが卑怯······。今の一言聞き捨てならぬぞ。これ、この石はかう切つたのだ。

(五郎三郎は不意にかたへにおきたる刀を取つて、ぬき撃に斬りつくる。外記は身をかはして碁石をうち付ける。五郎三郎透さず斬り込むを、外記は二三度掻いくゞり、碁盤をとつて受止むる。お縫と三左衞門は奧より走り出づ。)

お縫  これはまあ何うなされたのでござります。

三左  先づ/\お鎭まり下さりませ。

(二人は割つて入る。)

外記  いや、騷ぐには及ばぬ。叔父さまが負腹を立たれたのだ。叔父甥が内輪同士の勝負に、一目二目のあらそひから、理不盡の刀傷沙汰は、日ごろの叔父樣にも似合はぬこと。兎かくに賭事勝負ごとは人を氣違ひにするものだなう。

五郎  これ、外記。賭事勝負ごとは人を氣ちがひにすると知りながら、遊女ぐるひは人を氣違ひにするとは氣がつかぬか。よし原がよひにうつゝをぬかして、三年越しの身持放埓、この叔父が陰になりひなたになり、隱しても庇つてももう及ばぬ。すでに舊冬は小普請入り仰せつけられ、すこしは眼も醒むるかと思ひの外、ます/\亂行募る趣、かしら支配の耳にも入つて、ひと間住居を申付けらるゝか、あるひは甲府勝手かふふがつてをいひ渡されうも知れぬと、組中でも專ら噂する。かくては家の恥、親類縁者の恥、所詮このまゝには捨ておかれぬ奴。圍碁の爭ひにことよせて、たゞ一刀に斬つて捨て、表向きは頓死と披露して、妹に然るべき婿をとれば、世間に恥もあらはれず、藤枝の家に疵もつくまい。

お縫  では、叔父樣は最初はじめから巧んだ事でござりましたか。

五郎  おゝ、はじめから仕組んだ今の口論。分別ざかりの武士さむらひが理不盡の刃物三昧、おとなげないと思ふなよ。覺悟はして來ても、人のこゝろは弱いもの、現在の甥を切らうとする腕は鈍つて、撃ち損じたが殘念だわえ。さあ、外記。この上は詰腹······。尋常に切腹いたせ。叔父が介錯かいしやくしてやるぞ。

外記  お詞ではござりますが、外記は命が惜うござります。御手討も切腹もまつぴら御免······

五郎  なに、命が惜いと······。かへす/″\も卑怯な奴······。その儀ならば······

(また拔きかゝるを、お縫と三左衞門は遮る。)

お縫  叔父樣が日ごろの御氣質では、御無理もないことでござりますが、たとひ座敷牢でも甲府詰でも、お命にさへ障りがなければ、また御出世の時節がないとも限りますまい。

三左  孃樣のおつしやる通り、お家のためとは申しながら、甥の殿をむざ/\御手討の詰腹のとは、憚りながら餘りにむごい御沙汰。この儀ばかりは三左衞門、いくへにも御勘辨をねがひ上げまする。(更に外記にむかひて。)もし、殿樣。叔父さまが今のおことばを、なんとお聞きなされました。先刻も御自分で仰せられました通り、御幼少の時から武藝がお好きで、弓馬劒術柔術まで皆それぞれに免許のお腕前、現に今も叔父樣が不意討の切先きつさきを見ごと受止めたほどではござりませぬか。その武藝をお役に立てゝ、神妙に御奉公あそばせば、御出世はのあたりでござりませうぞ。

お縫  それには心を入れ替へて、よし原の女子のことなどふつゝり思ひ切つてくださりませ。

(外記答へず。)

五郎  お縫も三左衞門も兎かう申すな。下世話にいふ馬の耳に念佛、なにを云つても無駄なことだぞ。

お縫  でもござりませうが、今日のところは何分御勘辨をねがひます。

三左  穩便の御沙汰をおねがひ申します。

五郎  其方達がそれほどに申すならば、けふはこのまゝ立歸らうが、この後も改心せぬに於ては藤枝の家には代へられぬ。きつと仕置をせねばならぬぞ。外記、すこしでも武士の性根があらば、よく分別してみろ。

(五郎三郎は起ちあがる。お縫はうしろより羽織を被せる。)

五郎  (羽織の紐をむすびながら。)慶長元和の合戰には、武名をあげたる藤枝の家も、太平二百年の後にはかゝる腰ぬけを産み出して、三河武士みかはぶしの血も次第に涸れてゆくは、人の罪か、世の罪か。(お縫等と顏をみあはせる。)實に殘念な儀だなう。

(嘆息しつゝ奧に入る。お縫と三左衞門は送りてゆく。外記はあとを見送りて獨言。)

外記  命が惜いと申したら、むかし氣質かたぎの叔父樣は、ひとかたならぬ御立腹であつたが、家の爲や親類縁者のために、命を捨てろといふのは無理な註文。自分の命は自分のもの、人のためになんで死なうぞ。外記の命も自分の爲なら、なん時でも見事に捨てゝ見せるわ。

(時の鐘きこゆ。)



藤枝屋敷の門前。正面は屋根つきの門。左右は板羽目いたばめにて、武家の長屋窓あり。


(燈籠屋は盆燈籠の荷をおろして、駒寄こまよせの石に腰をかけ、水屋は障子屋根の屋臺を卸して立つ。)

燈籠屋 どうですね、水屋さん。かう暑くつちやあお前さんなぞは大當りだらうね。

水屋  いや、なか/\さうは行きませんよ。それに此邊は掘井戸が多いから、水屋は一向御用なしさ。

燈籠屋 わたしの商賣なんぞも、けふを過ぎちやあ、もうおしまひだ。なにしろ際物きはものは壽命が短いからねえ。

水屋  おたがひに樂は出來ませんよ。日の暮れないうちに、もうちつと廻つて來ませう。

燈籠屋 まあお稼ぎなさい。

(兩人は挨拶して荷をかつぐ。)

水屋  さあ、さあ、水あがらんか。汲立あがらんか。冷つこい。

燈籠屋 燈籠や······燈籠······

(たがひに呼びながら左右に別れゆく。門内より吉田五郎三郎は草履取一人をつれて出づ。お縫と三左衞門は送り出づ。)

五郎  唯今も申聞かせた通りの次第であれば、外記の身に就てはそち達もよく氣をつけねばならぬぞ。魂のぬけた奴、どのやうな曲事きよくじを仕出さうも知れぬ。もし思案に能はぬことあらば、早速にわしまで知らせてまゐれ。よいか。

三左  委細心得てござります。

お縫  この上ともに何分よろしく願ひます。

五郎  むゝ。おのれの心ひとつで、一家一門家來にまで苦勞をかける。困つた奴だ。

(五郎三郎は草履取をつれて去る。お縫等はあとを見送る。ゆふ鴉の聲。門内より外記は帷子かたびら、羽織にて出づ。斯くと見るよりお縫と三左衞門は左右に立塞がる。)

お縫  お兄樣。どこへお出でなされます。

外記  どこへ行かうと餘計な詮議だ。

三左  叔父樣の御意見がまだおわかりにはなりませぬか。先づ當分は御謹愼······。(外記の袂をとらへる。)

外記  (屹となる。)謹愼とは誰の指圖だ。われはおれの料簡次第で、どこへでも勝手に行くぞ。

三左  え。

外記  馬鹿め。

(云ひ捨てゝつか/\行かんとす。お縫はその袂に縋りとゞむるを、外記はまた振切つて足早に去る。お縫と三左衞門は顏を見あはせて嘆息す。以前の燈籠賣が引返して再びゆき過ぐ。ゆふ鴉の聲悲し。)

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箕輪在の農家。藁ぶき屋根、竹縁ちくえんの二重家體にて、上のかた佛壇、その下に押入れあり。つゞいて破れたる障子、破れたる壁。上のかたの竹窓の外は蓮池にて、庭より奧へかけて一面に紅白の蓮の花さけり。下のかたには丸太の門口、そとには柳の大樹立てり。田畑をへだてゝ吉原の廓遠くみゆ。


(おなじく七月十三日の午後、佛壇には精靈棚しやうりやうだなをしつらへ、軒には大いなる切子燈籠きりこどうろうをかけたり。一人の僧は佛壇の前に坐して棚經たなぎやうを讀む。このの母お時は下のかたに坐して蚊いぶしを煽ぎゐる。いづこよりとも知らず、題目太鼓の音きれ/″\にきこゆ。僧は經を讀み終りて、こなたへ向き直る。)

僧   御囘向相濟みました。

お時  ありがたうござりました。當年はきつい殘暑でござりますな。

僧   今日は朝から湯島ゆしま神田かんだ下谷したや淺草あさくさの檀家を七八軒、それからくるわを五六軒まはつて來ましたが、なか/\暑いことでござつた。

お時  殊にこの邊は晝間でも藪蚊が多いので、なほ/\困り切ります。

(お時は蚊いぶしを煽ぐ。奧よりお時のせがれ十吉は盆に土瓶と茶碗をのせて出づ。)

十吉  和尚樣、お茶を一つおあがりなさいまし。

僧   いやもうお構ひくださるな。十吉どのもいつの間にか立派な若い衆になられましたなう。

お時  昨年親父がなくなりましてからは、これ一人が杖柱でござります。

僧   いや、いや、もう御安心ぢや。十吉どの、そのうちにわしがよい嫁御をお世話しませうぞ。

お時  はい、その嫁は······

(云ひかけるを、十吉はきまり惡き體にて、云ふなと制す。)

僧   では、もうきまつてござるのか。はゝゝゝゝ。それならば猶々御安心ぢや。いや、これは飛んだ長話。どれお暇いたさうか。

お時  まことにお恥かしうござりますが······。(盆に乘せたる布施のつゝみを出す。)

僧   折角のおこゝろざし頂戴しまする。

(僧は布施をとりて懷中し、下駄をはきながら、上のかたを見かへる。)

僧   おゝ、蓮が見事に開きましたな。いつもながら此邊は閑靜で好うござるなう。

お時  お寺の御近所にくらべますと、こゝらはまるで田舍でござります。

僧   いや、田舍が結構ぢや。では、御免くだされ。

二人  ありがたうござりました。

(僧は挨拶して去る。母子はあとを見送る。)

お時  いつも氣輕な和尚樣だなう。

十吉  あの蓮の花を大層褒めてゐなされたから、後にお寺まゐりに行くときに、折つて行つてあげようか。

お時  おゝ、それがよい、それがよい。

(母子は話しながらあたりを片附ける。近所の娘子供大勢が手をひかれて出づ。)

※(歌記号、1-3-28)ぼん/\盆はけふ明日あすばかり、あしたは嫁のしをれ草。

(子供等は盆唄をうたひながら行き過ぎる。お時は表をみる。)

お時  盆踊はこのごろ廢つたが、唄は相變らず賑かいなう。

十吉  朝からのべつに唄つてゐるやうだね。

(子供等の唄の聲遠くきこゆ。)

※(歌記号、1-3-28)君と寢やろか、五千石取ろか。なんの五千石、君と寢よ。

十吉  又あんな唄をうたつてゐる。もう好加減によせば可いに······。わしはあれを聽く度になんだかひや/\してならぬ。はじめは廓で唄ひ出したのださうだが、今ではこゝら一面に流行はやつて來た。

お時  こゝらでは幾ら流行つても構はぬが、お江戸のまんなかへだん/\に擴まつたら、殿樣の御身分にもかゝはること。あんな流行唄は早くやめて貰ひたいものだ。(嘆息して。)おゝ、やがて日がくれる。どれ、行水の湯でも沸して置かうか。これ、十吉、その蚊いぶしを斷やさぬやうに氣をつけておくれよ。

十吉  あい、あい。

(お時は奧に入る。かはづの聲きこゆ。十吉は蚊いぶしを煽ぐ。村の娘お米、浴衣にて出で、内を窺ひてつか/\入り來る。)

お米  十さん。

十吉  おゝ、お米さんか。

お米  おふくろさんは······

十吉  おふくろは奧にゐるが、なんぞ用かえ。

お米  いえ、おふくろさんよりもお前に聞きたいことがあつて······

十吉  あらたまつてわしに聞きたい事とは······

お米  ほかでもないが、この頃お前の家に來てゐる美しい女の人、あれはお前のお嫁さんかえ。

十吉  飛んでもないことを······。(奧を見かへる。)あれはそんな人ではない。第一にわしとは年が違ふものを······

お米  年が違ふとて、年上の女房を持つ人も、世間には澤山ある。ましてあのやうな美しい人だもの······

十吉  それはお前の邪推といふもの。あのお人はよんどころない譯があつて、さるお方からあづかつてゐるのだ。

お米  いえ、いえ、それは嘘であらう。わたしをだまして何時の間にかあんな美しい嫁御を貰つたに相違ない。(泣く。)

十吉  (迷惑する。)お前とわしとは、表向きの祝言こそせぬけれど、兩方の親たちも承知の上で、末は夫婦めをとときまつてゐる仲だ。なんでほかの嫁などを貰ふものか。積つてみても知れたことではないか。

お米  それならあれは何ういふ人で、どこの誰からあづかつたか、はつきり云つて聞かして下さい。(詰寄る。)

十吉  さあ、其人は······。(奧を憚る。)

お米  それは云はれまい、云はれぬ筈。(涙をぬぐふ。)おまへは一昨年をととしから三年越し、よくもよくもわたしをだましてゐた。恨みは屹と······。覺えてゐるがいゝ。

(お米は持つたる手拭を十吉に打ちつけ、蓮池へ走りゆきて飛び入らんとす。十吉は縁より飛び下りて抱きとめる。)

十吉  あゝ、これ、途方もないことを······。まあ、待つた、待つた。

お米  いゝえ、放して、殺して······

(二人は爭ふ折柄、奧の障子をあけて、大菱屋の綾衣、素人風にこしらへて出で、斯くと見るよりこれも駈け出でてお米を支へ、十吉と共にもとの縁先へひき戻す。お米は泣き伏す。)

綾衣  十さん、この兒は······

十吉  (きまり惡げに。)これはお米といふ近所の娘で······

綾衣  (鷹揚に。)もし、お米さんといふお兒、泣くことも怒ることもなんにもない。わたしはこの十さんのお嫁になるやうな人ではなく、かう見えてもほかに立派な男がある。お前のうたがひを晴すために、なにも彼も云つて聞かせるが、このごろ流行るあの小唄······君と寢やろか五千石とろか、なんの五千石君と寢よ······と、廓はもとより此のあたりまで、人に歌はれるのはわたしのことでござんすぞ。

お米  えゝ。

綾衣  相手のお人は五百石、それを五千石と云ひふらすは、尾鮨をそへた世間の噂。兎にも角にもそれほどの深い男をつた妾が、今更よそのお嫁になられた義理か。もし、わかつたかえ。

(お米の顏を見る。お米はやうやく首肯うなづく。)

十吉  もう斯うなれば隱さずにいふが、お前もかねて知つてゐる通り、家のおふくろがむかし御奉公をした番町の御屋敷の殿樣のおたのみで、この間からおあづかり申してゐる此のお人、わしの嫁などとは思ひも寄らぬことだ。

お米  (やう/\涙をぬぐふ。)そんならさうと最初はじめから明してくれゝば、わたしも心配はしまいものを、隱さるゝほど疑ふは女の習······。(綾衣にむかひ。)もしおまへ樣、堪忍してくださりませ。

綾衣  なんの詫ることがあらう。うたがひが晴れたらわたしも嬉しい。お前さんは十さんと約束がある樣子、おたがひに仲よく暮しなさんせ。

お米  はい。

(恥かしげに俯向く。綾衣はふたりの顏をぢつと見くらべる。)

綾衣  おまへさん達は羨ましい。たとひ藁葺屋根の下で、人に知られず一生を送つても、好いた同士が添ひとぐれば、世に生きてゐる甲斐がある。賣りものに花の綺羅をかざり、松の位の君達と、世に全盛をうたはれても、その身の果はなんとならう。人には運不運があるものでござんすな。

(二人はその意を解し兼ねて顏を見あはせてゐる。奧よりお時出づ。)

お時  これ、十吉。闇くならぬうちに、お寺へお迎ひに行つてはどうだの。

綾衣  ほんにけふはお盆の十三日······。(考へて。)お寺はどこでござんすえ。

十吉  上野のそばですから、さのみ遠くもございません。

お米  わたしも一緒に行きませうか。

お時  では、わたしの代りに拜んで來てくだされ。

(十吉は池のほとりへ行きて、花を折り取る。)

十吉  阿母おつかさん、このくらゐでよからうか。

お時  おゝ、それでよからう。もつと御入用だとおつしやつたら、又持つて行つてあげるが可い。

綾衣  憚りながらわたしにも其花をついでに折つてくださんせぬか。

十吉  あい、あい。

(十吉は白蓮の花四五本を折りて綾衣にわたせば、綾衣は會釋して手に取る。)

綾衣  花のなかでも白蓮は、氣高い美しい花でござんすな。

(つく/″\眺めてゐる。)

十吉  では、阿母さん。

お米  行つてまゐります。

お時  歸りには日が暮れるであらう。氣をつけて來るが可いぞ。

(十吉は蓮の花を持ち、お米と連立ちて出でゆく。綾衣はあとを見送る。)

綾衣  あのふたりは仲が好ささうでござんすな。

お時  どつちもまだ子供で一向に埓がござりませぬ。(云ひつゝあたりを見かへる。)時に綾樣。お前さまに些とお話し申したいことがござりますが······

綾衣  それは又あらたまつて何でござんすえ。

(綾衣は竹縁の端に置きたる手桶に蓮の花をはさみて、座にかへる。)

お時  お前樣とはまだ昨今のおなじみで、委しいお話もしませなんだが、わたくしはその昔番町のお屋敷に御奉公して、藤枝の殿樣にはお乳をあげた者、その御縁で今日まで相變らずお出入をするうちに、三年前から殿樣とおまへ樣とは深い仲、詰り詰つて廓をぬけ出し、差當りはわたくしの家に隱まつてくれとのお頼みで、この月はじめからお世話いたして居りますが、それがために殿樣のお身に難儀のかゝることを、お前さまは御存じか。

綾衣  それはうから知つてゐます。廓通ひが度かさなつて、自然お上の首尾をそこね、小普請入りを仰せ付けられたと、いつぞやぬしからも聞きました。

お時  さあ、その小普請入りは去年の暮、それでも行跡が直らぬとあつて、親類縁者の方々が御相談の上で近々に座敷牢とかいふ噂。その矢先へ今度のことがきこえたら、どのやうな大事が出來しゆつたいしようかと、それが案じられて此頃は、夜の目も碌に合はぬくらゐ······。なにをいふにも五百石のお家にかゝはること······。おまへ樣、察してくだされ。(涙を含みて掻き口説く。)

綾衣  では、わたしがいつまでも附き纏うては、ぬしの難儀となるによつて、切れてくれろとでも云はんすのか。

お時  申しにくい事ではござるが、もし聞きわけて、廓へ戻つてくださればなう。

綾衣  ほゝゝゝゝ。なるほどお前のこゝろでは、五百石のお家が大事であらうが、主とわたしの戀を唄うた此ごろの流行唄はやりうたを、お前はなんと聞きなさんした。なんの五千石君とねよ······。五百石や千石はおはぐろ溝へ流す白粉の水もおなじこと、百萬石でも買はれぬは、廓の女のまことでござんす。

(お時はあきれて其顏を見る。)

綾衣  (いよ/\誇りがに。)それほど尊い女の誠を五百石で買つたとおもへば、廉いものではござんせぬか。おたがひに惚れたが因果、あすが日どのやうなことがあつても、わたしを恨んでくださんすな。

お時  では、殿樣のお命にかゝはるやうなことがあつても······

綾衣  殿樣が死ねばわたしも死ぬまでのこと。殿樣が斯うなつたはわたしの爲、わたしが斯うなつたも殿樣の爲、云はゞ兩方が五分五分で、秤にかけたら重い輕いはござんすまい。わたし一人が惡いやうに思はんすは、あんまり身勝手でござんせうぞ。

(云ひまくられてお時は取付く島もなく、唯うつむきて默然としてゐる。淺草寺せんさうじの鐘の聲きこゆ。)

綾衣  今鳴つたのは淺草あさくさの暮六つ······。おふくろさん、行水のお湯は沸きましたか。

お時  おゝ、すつかり忘れてゐましたが、お湯は疾うに沸いてをります。殊にお前樣は世をしのぶお身の上、あまり端近に長居しては······

綾衣  では、暑さを洗ふ行水に、からだを淨めて來ませうか。

(綾衣は起つて奧に入る。)

お時  よし原の花魁おいらんといふものは、さて/\權高で意地の強いもの。今のおそろしい劍幕では、いくら妾が氣を揉んでも、殿さまと手を切つて、廓へ歸るなどは思ひもよらぬ。あゝ、困つたものだなう。(思案に暮れつゝ表をみる。)おゝ、いつの間にか日が暮れた。どれ、お迎ひ火でも焚きませうか。

(お時は奧より焙烙はうろくがらを入れたるを持ち來りてかどに出で、ひうちをうちて迎の火を焚き、またその火を燈籠に移す。苧殼やうやく燃えあがれば、お時は火にむかひて拜む。蟲の聲きこゆ。藤枝外記、忍びやかに出で來り、迎ひ火の烟のなかに立つ。お時は透しみる。)

お時  おゝ、殿樣······。お召物が白いので、わたくしは幽靈かと思ひました。

外記  いや、幽靈かも知れぬよ。たましひは生きてゐても、からだはすでに死んでゐる外記だ。むかひ火の烟に迷つて來た。(さびしく打笑みつゝ内に入る。)

お時  ほかに誰も居りませぬ。御遠慮なく、さあお通り遊ばしませ。

(外記はうなづきて縁にあがる。お時は手桶の水にて迎ひ火をしめして、おなじく内に入る。)

お時  どうもひどい藪蚊でござります。(團扇にて煽ぐ。)

外記  いや、構ふな、構ふな。(白扇をひらきて遣ひながら。)さて、乳母。このたびは彼女あれのことに就て、いろ/\厄介に相成るなう。

お時  その御挨拶では痛み入ります。何分にもこの通りの手狹といひ、親ひとり子ひとりの無人でござりますので、一向にお世話も行きとゞきませぬ。

外記  時に十吉は留守かな。

お時  はい。夕方からお寺まゐりに出ましてござります。

外記  先度まゐつた節にも生憎留守、兎角にかけ違つてしばらく逢はぬが、別に變つたこともないか。

お時  おかげさまで達者で居ります。

外記  それは重疊ちようでふ。十吉とわしとは乳兄弟、達者と聞けば嬉しいぞ。

お時  ありがたうござります。

(奧より綾衣、行水をつかひて夕化粧美しく、衣服も着かへて出で、嬉しげに外記のそばに坐る。)

綾衣  よく來ておくんなんしたね。ほゝゝゝゝ。隱さうとしてもさとの訛りがつい出てならぬ。堪忍してくださんせ。

外記  いや、その廓訛りが面白いのだ。併しこゝに忍んでゐることは誰も心付くまいな。

綾衣  燈臺下暗しとやらで、こゝとは流石さすがに氣が注かないやうでござんす。

お時  おゝ、暗くなつたのに、まだ行燈もとぼさずに······。唯今持つてまゐります。

(お時はその場を外す心にて奧に入る。)

綾衣  もし、さつきの文を見て下さんしたか。

外記  いや、まだ見ぬ先に破られた。

綾衣  破いたとは······誰が······

外記  家來の三左衞門めが、横合から取上げて、ずた/\に引裂いてしまつた。憎い奴めが······

綾衣  さして大事の文ではなけれど、引裂いてしまふとはあんまりな······。では、御家來衆までが、文の通路の邪魔をするのでござんすか。

外記  おゝ、家來は勿論、をぢも妹も親類一門、寄つてたかつてふたりの仲を裂かうとする。四方八方みな敵だ。

綾衣  なるほどさうでござんせうな。主はいよ/\座敷牢へ入れられるとか聞きましたが、そんなことがござんすのかえ。

外記  むゝ、無いともかぎらぬ。三年越しおまへに馴染んで、廓通ひの數かさなれば、勤向きの首尾もよろしからず、親類共も心配して、やれ詰腹の、座敷牢のと、なにか頻りに騷いでゐる。事によると、支配頭よりの沙汰として甲府詰を申渡されうも知れぬ。して、そのやうなことを誰から聞いた。

綾衣  こゝのおふくろさんから聞きました。

外記  それに就て乳母はなんと云つてゐた。

綾衣  心配で夜の目も碌にあはぬくらゐと······

外記  それほどまでに心配してくるゝか。外記が七つになるまで手鹽にかけ、生みの子のやうに可愛がつてくれた乳母だ。わしのよくない評判を聞いては、案じるも無理はない。しかし今更案じたとてなんとならう。兎かく世のなかは面白く暮すが得ではないか。いや、面白いと云へば、いつもは手に取るやうにきこえる廓の騷ぎ唄が今夜は一向きこえぬやうだな。

綾衣  主にも似合はないことを······。けふは盆の十三日で、店は休みでござんすから、三味線も鼓も聞えますまい。

外記  なるほど今日は十三日······。先月かぎり廓へ足蹈みも致さぬが、ゆうべは仲の町の草市くさいちであつたな。市は相變らず繁昌したことであらう。

綾衣  ほんにさうでござんす。主に初めて逢うたのも、一昨年をととしの草市の晩でござんした。

外記  おゝ、同役の者に誘はれて、生れて初めての吉原見物、草市で押しかへされぬ混雜のなかを、唯うろ/\とあるいてゐると、向うから來たおまへの袖に刀のつかを引きかけて、すらりと拔けて落ちようとするのを、あわてゝ押へるそのはずみに、思はずおまへの袖までも一緒につかんで引き止めた。そのとき顏を見あはせたが、馴染の始め、戀のはじめ、縁といふものは不思議ではないか。

綾衣  あの晩はいつもよりも賑かで、大門をくゞつたお武家も大勢、仲の町へ見物に出た花魁も大勢、その大勢のなかで主とわたしとが、丁度たがひに行き逢うたのは、よく/\深い縁でござんせう。

外記  そのときの刀はこれだが······。(わが刀を見る。)鍛へは國俊くにとし、家重代······。先祖はこれで武名をあげたと、老人としより共からたび/\聞かされたものだ。

綾衣  ふたりに取つては結ぶの神のその刀を、わたしにもよく見せてくださんせ。(刀をうけ取りて鞘のまゝに打眺め。)よい刀で切られたら、ひと思ひに死なれるでござんせうな。

外記  おゝ、鍛へのよい業物わざものなら、苦みも痛みもない。

綾衣  切つても突いても、苦みなしに······

外記  たゞ一思ひに死なれるのだ。

(云ひつゝ刀をこなたへ取らんとすれど、綾衣は鞘をつかんで放さず。二人は顏を見あはせて少時しばしは詞もなし。この時、流しの新内語りが三味線を持ちて出で、この家の門に立つ。)

新内※(歌記号、1-3-28)かねて二人が取りかはす、起請誓紙きしやうせいしもみんな仇、どうで死なんす覺悟なら、三途さんづの川もこれ此のやうに、ふたり手をとり諸共もろともと、なぜに云うてはくださんせぬ。

(門にてこの文句を語るうちに、外記は刀を取りてわが傍に置き、二人は默つて唄を聽いてゐる。そのあひだに二人は云ひあはさねどいつそ死なんと覺悟し、綾衣は手桶にさしたる蓮の一枝を持來り、縁に打ちつけて花を碎き、この通りに······と外記の顏をみる。外記もうなづく。奧よりお時は角行燈をさげて出づ。)

お時  手が塞がつてゐますよ。

(新内語りは唄をやめて、流しを彈きつゝ去る。)

お時  今夜は廓が盆休みなので、こんなところまで新内の流しが來た。(ひとり言を云ひながら、行燈を二人のそばに置く。)

外記  これ、乳母。まことに氣の毒だが、なにか酒肴さけさかな見繕みつくろつて來てはくれまいか。

お時  はい、はい。かしこまりました。

外記  (紙入れより金を出す。)では、これでよいやうに頼むぞ。

(綾衣は取次ぎてお時にわたす。)

綾衣  とんだ御苦勞でござんすな。

お時  この邊には碌な物もございませんから、田町たまちまで一走り行つてまゐります。

外記  急ぐにはおよばぬ。氣をつけて行け。

お時  では、留守をおたのみ申します。

(お時は奧に入る。蟲の聲しきりに聞ゆ。外記と綾衣はしばし詞もなかりしが、綾衣は起つて奧をうかゞふ。)

綾衣  おふくろさんは裏口から出て行きました。

外記  おゝ、左樣か。世のなかは面白く暮すが得だと、先刻は申したが、その面白い夢も些との間で、おそかれ早かれ座敷牢か、甲府勝手か、おまへとも辛い別れをせねばなるまい。

綾衣  では、いつそ死んでくださんすか。(小聲に力をこめて云ふ。)

外記  おまへも死ぬか。

綾衣  たとひどのやうに戀ひこがれても、生きて添はれる身ではなし、先月廓をぬけ出してからは、いつ何時なんどきでも死ぬ覺悟で、毎日行水に身をきよめ、夕化粧の身だしなみを缺かしたことはござんせぬ。

外記  やれ、家柄の身分のと、さま/″\の手械足枷てかせあしかせで、人を責めようとする窮屈な世の中、くもの巣にかゝつた蝶々蜻蛉もおなじことで、命とたのむ花の露も吸はれず、羽翅はがひをしばられて悶死もがきじに、あゝなんの因果で武士さむらひの子に生れたか。冥土へゆけば家柄もなし身分もなし、武士も町人も自他平等、うるさい此世にゐるよりも優しであらうよ。

綾衣  では、けふかぎり五百石のお家を捨てゝも、主は惜うはござんせぬか。

外記  命までも捨てゝかゝつたからは、五百石の家がなんであらう。先祖が慶長元和の戰ひに、見ごと敵勢を打ち破つて、勝閧をあげた誇りの笑顏も、外記が世間の人と鬪つて、あらゆる邪魔をうちはらひ、戀と意地とを立て通した最期の笑顏も、鏡に映せばおなじ顏で、勝利の滿足に變りはあるまい。

綾衣  それを聞いて安心しました。主は立派なお旗本、わたしは流れの身なれども、人の命に二つはない。今このふたりが死ぬ際に、お家のことなどを必ず念にかけてくださんすな。

外記  はて、くどい。外記をそれほどの野暮と思ふか。先祖傳來の家をすてゝ、冥土でふたりが新しい家を作らう。(笑ふ。)

(大菱屋の若い者喜介出で來り、門口より内をうかゞひて、更に外の方にむかつて差招けば、おなじく伊平と忠藏は駕籠夫かごやに駕籠を吊せて出で、たがひに囁き合ひて、喜介は先づ門をあけて入る。綾衣は透し視ておどろく。)

綾衣  や、おまへは店の······

喜介  へい。喜介がお迎ひにまゐりました。

(外記は綾衣と顏を見あはせる。)

外記  おゝ、貴樣は喜介か。なにしにまゐつた。

喜介  これは藤枝の殿樣······。どうも失禮をいたしました。もし、花魁え。こゝで兎や斯うは申しません。まあ、すなほに歸つて下さい。

(綾衣答へず。)

喜介  先月の晦日みそかにかけ出したぎりで音沙汰なし、相手は大抵見當あたりが付いてゐるものゝ、表沙汰にしたら又迷惑する人もあらう。(外記を尻目にみる。)と、内證で手わけをして探してゐましたが、眼と鼻の間のこんなところに隱れてゐようとは、今の今まで些とも知りませんでした。さあ、惡いことは云ひませんから、一緒に歸つてください。御内證の方へは私達からまた好いやうに取りなしてあげますから······。さあ、花魁······

外記  いや、綾衣を連れて歸ることは罷りならぬ。

喜介  え、御不承知でございますか。

外記  いかにも外記が不承知だと、立歸つて主人にさう申せ。

喜介  (せゝら笑ふ。)へゝ、子供の使ぢやございません。ぢやあ、殿樣。どうしても花魁を渡しちやあ下さいませんか。

外記  えゝ、わからぬ奴だ。歸れ、歸れ。

喜介  へえ、左樣でございますか。

(云ひつゝ隙をみて外記の刀を奪ひ取り、それと見かへれば、外にかくれたる伊平忠藏はかけ込みて、矢庭に綾衣の手をとらへ、無理に引立ひつたてゆかんとす。外記は立寄つてなげ退ける。そのあひだに忠藏は綾衣を引立てゝ庭に降りる。外記は追はんとするを喜介は支へる。伊平も這ひ起きて外記に組みつく。駕籠夫は忠藏をたすけて、綾衣を無理に駕籠の中へ押入れんとす。外記はいらつて刀を奪ひ返し、ひき拔きて振りあぐれば、忠藏は恐れて綾衣をうち捨て、駕籠夫は空駕籠をかつぎ、共に表へ逃げ去る。外記は刀をふりあげて追ひ立つれば、喜助も伊平も拔けつくゞりつ逃げまはりて、これも遂に門外へ逃げ去る。外記はあとを見送りて、門に鍵をかける。)

外記  思ひもよらぬ邪魔が這入つた。

綾衣  喜介の顏をみた時には、わたしもはつと思ひました。

外記  切つて捨つるは易けれど、それも無益の殺生と命ばかりは助けて歸した。

綾衣  一且は追ひかへしても、わたしの居どころが知れたからは又出直してくるは知れたこと······

外記  時をうつさば乳母も歸らう。

綾衣  十さんやお米さんも戻つて來よう。(向うを見る。)あのふたりは生きて添はれる身の上······

外記  死ぬのはいやか。

綾衣  なんの。ほゝゝゝゝ。

外記  はゝゝゝゝ。

(顏をみあはせて笑ふ。題目太鼓の音遠くきこゆ。)

外記  又もや妨げのないうちに······。綾衣、來やれ。

綾衣  あい。

(二人は縁にあがり、綾衣は座敷の隅より古びたる半屏風をもち來りて、逆さに立てまはし、縁側の手桶より蓮の花三四本を取り來る。)

綾衣  さつきぬしに見せたのは、花をちらすといふ覺悟の謎、たがひに解けて斯うなるからは、ふたりが手を取つてあの世へゆき、蓮のうてなに半座をわけて、千年も萬年も住む心······。これ見てくださんせ。

(蓮の花をむしりて、二人の前にその花葩はなびらを雪のごとくに敷く。)

外記  成程これは蓮の臺、この世からなる極樂淨土か。いや、風流で面白い。

綾衣  して、書置の御用意は······

外記  書置などと云ふものは、この世に未練のあるやからが、亡き後を思うて愚痴をかき殘すか。或はこの世に罪あるものが、詫状代りに書きのこすか、二つにひとつ。外記はこの世に未練もなく、また懺悔すべき罪もない。笑ふものは笑へ、そしるものは誹れ、なんとでも云はしておけ。申譯めいた書置などは要らぬことだ。

綾衣  ほんに主のいふ通り、褒めようが笑はうが、それは世間の人の心まかせで、どつちでも關はぬこと。ふたりの心は二人よりほかに知る人はござんすまい。

外記  この世界は二人の世界だ。

綾衣  未來までもふたりの世界。

外記  綾衣······

綾衣  殿樣······

(二人は顏を見あはせて打笑ふ。)

外記  支度いたせ。

綾衣  あい。

(外記は身づくろひして刀をぬく。綾衣は起つて佛壇に線香をそなへ、屏風を二人の前に立てまはす。淺草寺の鐘の聲。切子燈籠は夜風にゆらめく。)



同じくこの家の裏手。中央は臺所口にて繩簾なはすだれを垂れ、左右は板羽目、柳の立木などあり。風の音にまじりて題目太鼓の音遠くきこゆ。


(十吉とお米は足早に出づ。)

十吉  急いでも夜道は捗取はかどらぬものだ。併しまだ五つにはなるまい。

お米  おふくろさんがぞ待つてゐるんでござんせう。

十吉  お前の家でも案じて居よう。あいにくに曇つて暗い晩だ。

お米  來るみち/\も方々の家で、おむかひ火を焚いて、盆燈籠をつけて、なんだか寂しうござんすな。

十吉  私と一緒だ。怖いことはない。

(打連れて上の方の門口へ行きしが、また出で來る。)

十吉  はて、不思議な。表の戸にはかぎをかけてある。

お米  わたし達の歸りが遲いので、おふくろさんは待兼ねて、どこへか買物に行つたのではあるまいか。

十吉  大方そんなことかも知れぬ。兎もかくも裏口から這入るとしよう。眞暗だから足もとに氣をつけて······

お米  あい、あい。

(二人は臺所口へ※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)らんとする時、柳は夜風になびきて、お米の顏を打つ。これと同時に稻妻ひらめく。)

お米  あれツ······。なにやら光る物が······。(十吉に取りつく。)

十吉  今のは稻妻であらう。秋になると毎晩光ることがある。

お米  わたしは又、人魂かと思ひました。

十吉  なに、人魂······。かういふ晩にそんな氣味の惡いことを云ふものではない。

(お時は徳利をさげ、風呂敷につゝみたる皿を持ちて出で、ふたりを透しみる。)

お時  十吉ぢやないか。

十吉  おゝ、阿母さん。

お米  どこへ行きなされた。

お時  お客樣のおたのみで田町まで買物に行つて來た。

十吉  なに、お客樣が······

お時  それ、番町の······

十吉  むゝ、番町の殿樣かえ。

(お時は靜にせよと制して、臺所口に入る。十吉とお米もつゞいて簾をくゞり入る。題目太鼓の音絶えずきこゆ。)



もとの家に戻る。逆さ屏風はもとの如くに立て※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)してあり。


お時  (奧より出づ。)どうも遲くなりました。

(云ひつゝあたりを見廻し、やがて屏風の中を覗きて、あつと驚き倒る。奧より十吉お米も走り出づ。)

十吉  阿母さん、どうしたのだ。だしぬけに大きな聲を出して······

お米  ほんたうにびつくりしました。

お時  吃驚せずにゐられるものか。まあ、あれを見たがよい。

(泣きながら屏風のうちを指させば、十吉等は不審ながら覗き見る。)

十吉  や、殿樣が腹を切つて······

お米  花魁が喉を突いて······

十吉  こりやあ飛んだことになつた。

(三人は顏を見あはせて、しばしは詞も出でず。吉田五郎三郎は中間角助に提灯を持たせて出づ。)

角助  殿樣、あれでございます。

五郎  おゝ、左樣か。案内いたせ。

(角助は先に立ちて門に來る。)

角助  もし、御免なさい。御免なさい。(門をたゝく。)

十吉  (縁端に出る。)はい、はい。どなたでございます。

角助  わたしだ。今朝お使ひに來た角助だ。

十吉  おゝ。角助さん。好いところへ······

(あわてゝ門をあくれば、五郎三郎は進み入る。)

五郎  これ、外記は居るか。

お時  おゝ、市ヶ谷の殿樣ではござりませぬか。お情ないことになりましてござります。(屏風を指さして泣く。)

五郎  なに、外記が如何いたした。

(五郎三郎は縁をあがりて屏風のうちを覗き、はつとしたるが、更に屏風のうちに入りて、二人の死骸をあらため、再び出で來る。)

五郎  けふの晝間の一條といひ、かれが屋敷を出でし折に、合點がてんのゆかぬ節もありしと、三左衞門の知らせに付き、とりあへず跡を慕うてまゐつたが、よもやかゝる始末とは······。武士たるものが色に迷ひ、あまつさへ見苦しき死恥を晒して、家を汚し、名を汚し、親類縁者のつらにも泥をぬる。かへす/″\も憎い奴め。

角助  では、もしや殿樣は······

五郎  言語道斷の大呆氣おほたはけ······。遊女と相對死あひたいじにをいたしたわ。

角助  えゝ。

五郎  いや、かやうな者には構ふにおよばぬ。角助、まゐれ。

(五郎三郎は席を蹴つて起たんとするを、お時は止める。)

お時  もし、殿樣。御立腹は御もつともでござりますが、五百石のお家を捨て、かうおなり遊ばすのはよく/\のことでござりませう。

十吉  わたくし共が差出たやうではござりますが、甥御樣御不憫とおぼしめして······。せめてお線香の一本も、供へてあげてくださりませ。

角助  なるほど皆さんのいふ通り、お家を捨て、お命をすてゝ、覺悟をおきめなさるには、云ふにいはれぬ深い仔細いりわけもござりませう。どうか幾重にも御勘辨をねがひます。

(左右より人々に縋られて、五郎三郎もすこし猶豫ためらふ。唄の聲、遠くきこゆ。)

※(歌記号、1-3-28)君と寢やろか、五千石とろか。

お時  あれ、あの唄をお聞きなされましたか。

五郎  むゝ。

※(歌記号、1-3-28)なんの五千石、君と寢よ。

(五郎三郎は耳をかたむけて聽く。唄の聲遠く消えて、蟲の聲。)

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底本:「修禅寺物語 正雪の二代目 他四篇」岩波文庫、岩波書店

   1952(昭和27)年11月25日第1刷発行

   2008(平成20)年2月21日第7刷

初出:「明治座」

   1911(明治44)年9月初演

※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

※「廻」と「※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)」の混在は、底本通りです。

入力:川山隆

校正:門田裕志

2011年3月27日作成

青空文庫作成ファイル:

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