えびのぜいたくな茶漬けを紹介しよう。これまた、その材料の
吟味いかんによる。これから述べようとするのは、東京の一流てんぷら屋の自慢する
まきと称する車えびの一尾七、八
匁までの小形のもので、
江戸前の生きているのにかぎる。横浜
本牧あたりで
獲れたまきえびを、
生醤油に酒を三割ばかり割った汁で、弱火にかけ、二時間ほど
焦げのつかないように煮つめる。
こんなえびは誰の目にも無論見事だし、一尾ずつで上等のてんぷら種になる材料だから、よほど経験のある
食通でなければ、やってのける度胸は出まい。これをいきなり
佃煮風にするのは、もったいない気がして、ちょいとやりきれないが、それをやりおおせるなら、その代わり
無類のお茶漬けの
菜ができるわけだ。つまり、本場の車えびを醤油と酒で煮た
佃煮である。
例のように
熱飯の上に載せる。茶碗が小さければ半分に切ってもいい。それに充分な熱さの茶を
徐々にえびの上からかける。すると、
醤油は溶けてえびは白くなる。やがて、
だしが溶けて、茶碗の中の茶は、よきスープとなって、この上なく
美味いものとなる。
季節はいつでもよいが、夏など口の
不味い時に、これを
饗応すれば、たいていの口の
著った人でも文句はいわないだろう。
えびは
京阪が悪くて、東京の大森、横浜の
本牧、東神奈川
辺で
獲れる本場と称するものがいい。こういうものを賞味するようにならなければ、食通とはいえまい。
この食通も、てんぷらなら二十や三十はわけなくペロリと平らげるが、
茶漬けという名がつくと妙におじけだす。