「へい
今日は、
八百屋でござい。「ナニ
八百屋か、けふは
肴やが
惣菜をおいてつたからまづいゝね。「
是非さうでもございませうが、
八百や
半兵衛が、
狂言しろ物を
沢山もつて
来ましたから、なんぞ買つてくださいナ。「ナニ
八百や
半兵衛が
狂言しろものだ、そいつはありがたい、買ひませう/\、
何がありますね。「エヽ
猿若座の
開業式でことふきのとう、二十四
孝の
竹の
子、
山門五三のきぼしり、
薄ゆきの三
人わらび、
太十の
皐月、
政右衛門のたゝみいわし、なぞト
云ふところでございます。「
成程、イヤかんしん/\。「
皆買ひませう、そこへおかつし/\。「ありがたうございます。「シテ
後はなんだね。「へい、あとはちとしぶいものでございます。「ナニしぶいものとはなんだね。「へい、
成田屋のこんくわゐでござります。「ナニこんくわゐはありがてえ、シテ
下のはなんだね。「へい
下のはいもせ
山の
橘姫で、きぬかつぎといふ
芋でございます。「
成ほど、いもくわゐもおいてゆかつし、
其外に
何かまだ長いものが見えるぢやアねえか。「へい、あれは
助高やもので、
大たばの
若菜ひめでございます。「
成ほど、わかなひめけつこう、こゝへ
出さつし。「へい
是でござります。「イヤこれは
助高屋ものできれいごとだと思つたら、ごみと
枯ツ
葉で、
梅幸が
世話物でつかひさうだ。「へい、そのかはりにごくやすうございますア。「イヤ/\安くつても感心しねえ。「そこが
狂言で。「はてね、
是が
狂言とはね。「されば
安菜だから
くずの葉もあります。