蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
蝉が鳴いてゐるほかになんにもない!
うつらうつらと僕はする
······風もある······
松林を透いて空が見える
うつらうつらと僕はする。
『いいや、さうぢやない、さうぢやない!』と彼が云ふ
『ちがつてゐるよ』と僕がいふ
『いいや、いいや!』と彼が云ふ
『ちがつてゐるよ』と僕が云ふ
と、目が覚める、と、彼はもうとつくに死んだ
それから彼の永眠してゐる、墓場のことなぞ目に浮ぶ······
それは中国のとある
雨の日のほか水のない
伝説付の川のほとり、
藪蔭の砂土帯の小さな墓場、
||そこにも蝉は鳴いてゐるだろ
チラチラ夕陽も射してゐるだろ······
蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
蝉が鳴いてゐるほかなんにもない!
僕の怠惰? 僕は『怠惰』か?
僕は僕を何とも思はぬ!
蝉が[#「蝉が」は底本では「 蝉が」]鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
蝉が[#「蝉が」は底本では「 蝉が」]鳴いてゐるほかなんにもない!
(一九三三・八・一四)