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夏は青い空に······

中原中也




夏は青い空に、白い雲を浮ばせ、

 わが嘆きをうたふ。

わが知らぬ、とほきとほきとほき深みにて

 青空は、白い雲を呼ぶ。


わが嘆きわが悲しみよ、かうべをげよ。

 ||記憶も、去るにあらずや······

湧き起る歓喜のためには

 人の情けも、小さきものとみゆるにあらずや


ああ、神様、これがすべてでございます、

 尽すなく尽さるるなく、

心のままにうたへる心こそ

 これがすべてでございます!


空のもと林の中に、たゆけくも

 あほざまにまなこをつむり、

白き雲、が胸の上を流れもゆけば、

 はてもなき平和の、汝がものとなるにあらずや






底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行

   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行

入力:ゆうき

校正:木浦

2013年1月23日作成

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