戻る

コキューの憶ひ出

中原中也




その夜私は、コンテで以て自我像を画いた

風の吹いてるお会式ゑしきの夜でした


打叩く太鼓の音は風に消え、

私の机の上ばかり、あかあかとあかり、


女はどこで何を話してゐたかは知る由もない

私の肖顔にがほは、コンテに汚れ、


その上に雨でもパラつかうものなら、

まこと傑作な自我像は浮び、


(ママ)[#「(ママ)り」は底本では「きしり」]ゆく、終夜電車は、

悲しみの余裕を奪ひ、


あかあかと、あかあかと私の画用紙の上は、

けれども悲しい私の肖顔にがほが浮んでた。






底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行

   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行

入力:ゆうき

校正:木浦

2013年1月23日作成

2018年12月27日修正

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。





●表記について



●図書カード