三四年前からいろいろに思ひ悩んだ記録の一つで感じ得たところのものを決してすつかり書き得たとは思はないが、断片的にも静観の心地には浸つてゐるつもりである。勿論この心地は容易に悟入することは出来ないもので、私などにしても、一進一退、
纔かに寸を進めて尺を退くの愚を敢てする事の多いのを常に自ら憐んでゐるのである。しかし私に取つては、この記録は決して
徒爾ではなかつた。また偶然でもなかつた。行かなければならないところに自然に到達しつゝあつたのである。好いにしてもまたわるいにしても
······。
大正七年十月九日
著者